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情熱的なルンバが流れる。車いすの安藤修二さん(67)(仙台市太白区)が、同じく車いすに乗ったペアの女性と右手をつないでリードする。車いすを左手でこぎ、遠心力を利用して回る。
互いの距離が縮まり、離れる。そして、伸ばした左手の先を見つめる。光を感じないはずのまなざし。音を頼りに女性の方を向き、柔らかな表情を浮かべた。
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大学ではアメリカンフットボールに熱中した。卒業して英会話サロンに内装業と仕事に打ち込んだ。結婚して一人娘を育てた。
「緑内障」。53歳の時にそう診断され、日常は変わった。視界が徐々に狭まる。かすみがかっていく。玄関先で自分の靴が見当たらない。「そこにあるでしょ」と妻。そんなに見えていないのか――。56歳まで引きこもった。「どうでもいいや。何もできない」
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医師の紹介もあり、視覚障害者が働く事業所で社会復帰した。その頃、同僚と仙台市内の障害者スポーツのイベントに足を運んだ。聞こえてきたのは懐かしい音楽。社交ダンスが趣味だった父親から教わったワルツだった。
「目が見えなくてもダンスってやれますかね」。宮城県車いすダンス協会のメンバーに尋ねた。答えはすぐに返ってきた。「できますよ」
競技歴25年の丹野泰子さん(60)に指導を仰ぐ。車いすの扱い方から、健常者のリードで動くことまで。一から教わった。
「90度右に回ります」と言葉で指示してもらう。180度はこう、360度はこう。回転角度の感覚を体に染みこませるのに1年かかった。それでも、新しいことを覚えることが楽しかった。サンバの動きは1時間で習得できた。風を切る心地よさを感じる。「できることがある」と夢中になった。
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盲導犬と一緒に点字名刺の営業で取引先を回っている時、営業トークは車いすダンスだ。こう切り出す。「健常者と同じように趣味も楽しんでいるんですよ」。相手は知らない「車いすダンス」に興味津々。「どう踊るの」。実際に見に来てくれた人もいる。
「怖がらないからこそできる貪欲な動きがある」と自負している。あの頃、「何もできない」と思っていたのは、怖がっていたから。今は違う。「自分にしかできない」表現にこだわっている。