亡き子思い出たどる旅 坂城銃撃2年 一緒にいる感覚 「生きる力に」

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思い出のおぶっこを食べる市川さん夫婦
思い出のおぶっこを食べる市川さん夫婦
杏菜さん
杏菜さん
直人さん
直人さん
直人さんの中学時代のクラスメートから贈られたアルバムを手にする市川さん
直人さんの中学時代のクラスメートから贈られたアルバムを手にする市川さん

 杏菜、直人――。家族で過ごした場所に足を運ぶたび、元気だった2人が目に浮かび、名前を呼びそうになる。坂城町銃撃事件から26日で2年。平穏な日常を突然奪われた両親は、日に日に増す喪失感を抱きつつ、2人との思い出をたどり始めている。(岡部哲也)

 「杏菜も直人も『(薬味の)辛みそはいらない』って言うから、全部パパが食べたんだよね」

 今月9日、長野市内の「道の駅中条」のレストラン。市川武範さん(57)と妻は、あの頃と同じように、平麺をみそで煮込んだ郷土料理「おぶっこ」を注文し、思い出をかみしめるように麺をすすった。

 5年ほど前、市川さんが子どもたちを連れて初めて訪れた。数か月後、妻は、杏菜さんに「おぶっこって知ってる? おいしいから食べに行こう」と誘われたという。初めて聞く妻の思い出に、市川さんは「よっぽど気に入ったのかな。杏菜を連れてきてよかった」としみじみと語った。

 市川さんが「記憶の旅」を始めたのは昨年末。妻を病院に連れて行く道中でふと、幼い頃の杏菜さんが好きだった諏訪市内のステーキ店に立ち寄った。味は少し変わっていたが、「杏菜と一緒にいる」ような感覚になれた。以来、妻を連れて10日に1度ほど、思い出の場所を巡るようになった。

 先月29日、夫婦は4年前の同時期に直人さんを連れて行った国道292号「志賀草津高原ルート」をドライブした。目当ての「雪の回廊」は雪が解けて見られず、妻と「あの日と同じだね」と苦笑した。こどもの日には上田市の丸子公園で、家族の恒例行事だったこいのぼり観賞をした。

 「杏菜と直人が生きた証しを確認する旅。2人の存在を感じることが生きる力になる」と市川さんは話す。ただ、妻は「行く先々で2人を探してしまう。つらすぎて、まだ心の整理ができない」と涙ぐむ。

 ふさぎ込んでいた日々から前に進もうとする一方、生活再建は道半ばだ。直人さんが生まれた年に新築した自宅の床には今も血痕や男の土足痕が残り、片付けは手につかない。近隣住民からの暴言やインターネット上での中傷で精神的に追い詰められ、自営業も再開できずにいる。市川さんは「被害者が立ち直るのは、そう簡単なことではない」と打ち明ける。

 それでも心の支えになる出来事があった。

 今年3月、直人さんが中学3年の頃のクラスメートが、アルバムをプレゼントしてくれた。「直人のギャグにたくさん笑わせてもらったよ」「直人の歌、また聴きたいな」。添えられたメッセージからは、両親の知らない素顔が感じ取れた。

 妻は「こんなに愛されていたなんて。みんなの心の中に生きていることを知れて感動した」と目元をぬぐった。

 「杏菜も直人も天国で、『今までと変わらないパパとママでいて』と言っているはず。2人が生きていた頃と同じように、妻と仲良く手を取り合って、からかい、けんかしながら、前を向いて生きていきたい」

 夫婦で支え合い、記憶の中の2人に会いに行く。

坂城町銃撃事件 2020年5月26日午後11時過ぎ、坂城町上平の市川武範さん宅に暴力団組員の男(当時35歳)が押し入り、長女杏菜さん(当時22歳)と次男直人さん(当時16歳)を拳銃で殺害後、その場で自殺した。県警は、事件2日前に起きた市川さんの長男に対する傷害容疑などで逮捕状を取って男の行方を追っていたが、逮捕前に襲われた。男は殺人容疑などで被疑者死亡のまま書類送検され、同年10月に不起訴となった。

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3048721 0 ニュース 2022/05/24 05:00:00 2022/05/24 05:00:00 2022/05/24 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/06/20220601-OYTNI50051-T.jpg?type=thumbnail

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