誰もが幸せな一杯を

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「誰もが楽しめるコーヒーを作りたい」。日々、焙煎機に向き合う井田さん(奈良市で)
「誰もが楽しめるコーヒーを作りたい」。日々、焙煎機に向き合う井田さん(奈良市で)

 ◇奈良市のコーヒー焙煎(ばいせん)士 井田 浩司さん 36

 最良の一杯をいれるために、地球の裏側まで行って生豆を仕入れ、焙煎ばいせんする。目指すのは、透き通った香りとほのかな甘みも引き出したコーヒー。「誰もがおいしいと感じる味」だからだ。豆の状態や気候でも味が変わる繊細な作業を繰り返す中で、今年8月、焙煎技術を競う全国大会で優勝した。

       ◎

 コーヒー店の2代目。大学に入学後、アルバイトの一つとして、父が経営する奈良市の近鉄奈良駅そばの店を手伝い始めた。他の飲食店のアルバイトもするうちに「飲食業界がおもしろい」と感じ、2003年、父の会社に入った。

 10年に店舗を改装した際、「こだわるなら突き詰めたい」と、品質の高い「スペシャルティコーヒー」を扱うとともに、焙煎機を導入し、自家焙煎を始めた。マニュアルのない世界。日々、豆を煎りながら、どれだけ熱と時間を加えればいいか、データと感覚を積み上げていった。近畿で活動する同世代の勉強会にも参加して技を磨いた。

 「コーヒーは嗜好しこう品。幅広い世代が楽しめるようにしたい」と、考えが定まってきた。「きれいな酸味」「鼻から抜ける香り」「チョコレートのような心地の良い苦味」。雑味のない、すっと飲める味を追求していった。

       ◎

 スペシャルティコーヒーを扱う焙煎士には、「フロム・シード・トゥ・カップ」という合言葉がある。生豆の栽培から、消費者に一杯を差し出すまで、すべての過程にこだわりを持つという意味だ。

 生豆の良しあしが、味を大きく左右する。いい豆を仕入れるには、生産農家を訪ねるしかない。昨年9月、意を決してブラジルに飛んだ。今年2月は中米のコスタリカ、ニカラグア、4月はエルサルバドルへ。農家たちは、豆を一つ一つ手摘みして、洗い、選別していた。「天候に左右されるので、雨が多い年は生活が苦しい」と聞いた。

 「苦労に見合った価格で買い、たくさん売ることで、生産者の生活が安定し、現地の雇用も生む。すべての人が幸せになるコーヒーを目指そう」。少しずつ、自分で見極めた豆を増やしている。

       ◎

 焙煎の技を競う全国大会「ジャパン・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップ」には、13年から毎回出場してきた。16年は3位に入賞したが、昨年は予選落ちに終わっていた。自分の味を認めてもらうための、越えなければならない壁だ。今年は「優勝する」と周囲に宣言して臨んだ。

 大会には全国から約90人が参加。焙煎した豆を送り、6人だけが東京で開かれた決勝に進んだ。出場者には豆や焙煎機が同じように与えられ、事前に申告した通りの味に焙煎するのがルール。「甘いオレンジの風味」と指定し、苦みを抑え、高評価を得た。

 「たくさんの経験を積んできたことで、思った通りに焙煎できた」と喜びをかみしめる。優勝は、県内では初めてという。来年開催予定の世界大会に、日本代表として進む。

 より身近に味わってもらおうと、県内の名所をイメージした味のドリップバッグを商品化した。中秋の名月で有名な猿沢池は、やや深めに焙煎し、しっかりしたコクを出した。春日大社の春日山は、フルーティーな酸味を出した。12月には、本店を改装し、コーヒーに加えて、県産小麦を使ったクロワッサンや大和野菜を提供する予定だ。

 世界に目を向けるうち、地元を意識するようにもなった。「コーヒーを通じて、奈良を発信したい」。新たな夢に向かっている。

 

 <いだ・こうじ>

 1982年、奈良市生まれ。「路珈珈(ろここ)」社長。本店「coffee beans ROCOCO(コーヒービーンズロココ)」(奈良市西御門町)に加え、2店目となる富雄店「TOMIO ROASTERY(トミオロースタリー)」(奈良市三碓)を昨年5月に開店した。焙煎豆やドリップバッグコーヒーの通販にも力を入れる。

 

 ◇<取材後記>日本一の味に感嘆

 実は、コーヒーが苦手だった。特にブラックは苦くて嫌いだった。取材で、井田さんが差し出してくれたコーヒーを一口含んでみて、初めて「おいしい。すっと飲める」と思った。「日本一の一杯」がこれかと感じ入った。

 「フロム・シード・トゥ・カップ」は、井田さんが何度も口にしていた。地球の裏側にまで行って豆を見極め、生産者にも消費者にも気を配る。「足で稼ぐ」といわれる記者とも似ているな……と、思わず我が身を振り返った。(細田一歩)

無断転載・複製を禁じます
50982 0 人あり 2018/11/26 05:00:00 2018/11/26 05:00:00 「誰もが楽しめるコーヒーを作りたい」と焙煎機の傍らで話す井田さん(奈良市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181126-OYTAI50000-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

一緒に読もう新聞コンクール

新着クーポン

NEW
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
NEW
参考画像
600円300円
NEW
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス
NEW
参考画像
ご宿泊のお客様の夕食時に地酒(お銚子)またはソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ