<下>大恩人の足跡 伝え継ぐ

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 新緑の木立の隙間から深い緑色の水面が見えた。香芝市関屋北にあるため池・旗尾はたお池(約8ヘクタール)。4月23日、池畔の丘にあるほこらで、田植え前に豊作を祈願する「水神祭」が営まれた。池を維持管理する旗尾土地改良区の役員ら約20人が参列し、枡田定秀執事(61)ら法隆寺僧侶と、地元の神社宮司が祭事を執り行った。

 市内の太子道沿いには、この旗尾池と、その東600メートルほど離れた分川池(約5ヘクタール)という二つのため池がある。いずれも太子が造ったと伝えられる。「日本書紀」は607年、「倭国やまとのくにに肩岡池を造った」と記す。一帯は当時、「片岡」という地名で呼ばれ、肩岡池は両池を指すとされてきた。

 「水神祭は、太子さんへの感謝の表れです」。改良区理事長の吉村増雄さん(73)は言う。両池の水を利用する農家らは毎年1月22日、収穫した新米を法隆寺聖霊院の太子像に供える「初穂奉納法要」を続けてきた。同院前の手水舎ちょうずやには「旗尾分川」の字が刻まれた石碑があり、江戸時代の1697年、水をためる石槽を寄進したことを伝えている。

 分川池水利組合長の中西孝昭さん(74)は「太子さんのお陰で池の水を使って毎年、米作りができる」と謝意を示す。約15アールの水田を持つ組合員の中西久良さん(63)も「先祖はお礼の気持ちを込め、手水舎を寄進したのでしょう」と想像する。

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旗尾池畔の水神祭で、読経する法隆寺の僧侶(4月23日、香芝市で)
旗尾池畔の水神祭で、読経する法隆寺の僧侶(4月23日、香芝市で)
太子道への思いを語る坂口さん(香芝市で)
太子道への思いを語る坂口さん(香芝市で)

 香芝市では、法隆寺の太子道再興の動きと呼応するように、市民らが道を保存し、継承しようと立ち上がった。呼び掛けた103歳の坂口顕男さんは、旗尾池の恩恵を受けてきた家に生まれ、小さい頃から「このあたりを太子さんが通っていかれた」と教えられてきた。市内に点在する伝承地を「街の活性化に生かしたい」と考え、法隆寺や市に協力を求め、1997年に「太子をしのぶ道顕彰会」を設立した。

 戦後、都市化が進み、地元でも古道は消えつつある。二つのため池や太子創建ともされる尼寺廃寺跡、太子が休憩したとの由来がある穴虫峠近くの「ヤスン場」など伝承を集めた散策マップを作成し、道沿いに石碑2基を建立した。坂口さんは「我々にとって太子さんは、偉人であるとともに、大恩人。若い人にもその気持ちを受け継いでほしい」と願う。

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 太子道が通る王寺町の平井康之町長(65)は「太子が説いた『和の精神』がまちづくりの基本」と語る。役場近くの「やわらぎの鐘」が町のシンボルとなり、太子の愛犬・雪丸をモチーフにした公式キャラクターが人気だ。「太子ゆかりの町であることを広く知ってもらい、地元に愛着を感じてほしい」と話す。

 法隆寺境内が子どもの頃の遊び場だったという斑鳩町の中西和夫町長(66)は「斑鳩にとっては聖徳太子が町おこしの中心」と強調する。今秋には日本遺産の枠組みとは別に、斑鳩、王寺、三郷、安堵4町が連携し、太子ゆかりの場所を巡る新たなウォーキング事業を検討している。

 毎秋、太子道を歩く法隆寺僧侶らを盛大に出迎える三宅町。森田浩司町長(34)は「我が町は、おもてなしの発祥地。太子は心の支えでもある」と言い、今秋の歓迎行事では町外から観光客らを呼び込む新たな趣向を模索する。

 太子が行き来した道を歩き、空気を吸い、思いをはせる。法隆寺の古谷正覚執事長(69)は「太子様が造られたという池や井戸、腰掛けられたという石は、近所の人たちや町ぐるみで大事にされている。太子様への信仰をひしひしと感じる」と話す。

 2021年。聖徳太子の1400年御遠忌ごおんきを迎える。太子道は、いつの時代もそうであったように、太子をたたえ、慕い、敬う人々の祈りの道でありつづける。

(この連載は西田大智が担当しました)

無断転載禁止
21498 0 法隆寺‐太子道‐ 2018/05/14 05:00:00 2018/05/14 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180513-OYTAI50010-T.jpg?type=thumbnail

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