<4>文化財保護 世界で貢献

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橿考研職員(右から3人目)の指導を受けて測量技術の基本を学ぶシリアの女性たち(橿原市で)
橿考研職員(右から3人目)の指導を受けて測量技術の基本を学ぶシリアの女性たち(橿原市で)

 ◇国際交流

 「水平か確かめ、この穴をのぞいて目標までの距離を確認します」。県立橿原考古学研究所(橿考研)の職員が英訳し、シリア人女性4人が熱心にメモを取っていた。6月上旬、近くの橿原公苑の広場。習得に励むのは、考古学の調査に不可欠な測量技術だ。

 4人は、中東・シリア古物博物館総局で働く。国連開発計画(UNDP)の人材育成プログラムの一環で来日。5月16日から約2か月半の予定で、出土品を立体的に測る3次元(3D)計測や遺物のクリーニングなどを学ぶ。帰国後は、母国の文化財保全を先導する役割が期待されている。

イスラム国による爆破後のパルミラ遺跡のベル神殿(西藤技術アドバイザー、シリア古物博物館総局提供)
イスラム国による爆破後のパルミラ遺跡のベル神殿(西藤技術アドバイザー、シリア古物博物館総局提供)

 橿考研とシリアとの接点が生まれたのは、奈良市で1988年に開催された「なら・シルクロード博覧会」がきっかけだった。出展したシリアの専門家から「パルミラ遺跡の調査を手伝ってもらえないか」と要請された。紀元前1~3世紀にシルクロードの中継地として栄え、壮麗な神殿などオリエント風文化が開花した古代都市。90年には、当時の所長樋口隆康(故人)を団長とする調査団が結成され、隊長には元副所長で現技術アドバイザーの西藤さいとう清秀(64)が抜てきされた。2011年の内戦勃発まで地下墓などの調査や復元を行い、大きな成果を収めた。

     ◇

 15年夏、イスラム過激派組織「イスラム国」の侵攻でパルミラ遺跡のシンボル・ベル神殿などが爆破された。現地からのメールで知った西藤は「研究者は皆、無事だろうか」と不安が脳裏をよぎった。文化財よりも苦楽を共にした現地の仲間たちの安否が気がかりだった。不安は的中した。出土品の保管場所を明かさなかったとして、元パルミラ博物館長で世界的な考古学者ハレド・アサド氏が殺害された。友人の悲報に言葉を失った。

爆破される以前(西藤技術アドバイザー提供)
爆破される以前(西藤技術アドバイザー提供)

 いまだに紛争解決の糸口は見えず、調査や修復もいつ再開できるかわからない。だからこそ西藤は、アサド氏に続く後継者の育成に力を注ぐ。「文化財は結局、自国民が守るしかない。日本はその手助けをすべきだ」。長年の国際交流から得た教訓だ。

 来日組の一人でパルミラ遺跡調査にも携わったヒバ・アリ(28)は「パルミラ遺跡の象徴が破壊されたショックは大きかったが、どうにかしたい。時間はかかるが、日本で学んだ技術を修復と保存に生かしたい」と決意する。

     ◇

 橿考研の国際交流は、1972年に高松塚古墳(明日香村)で発見された極彩色壁画に朝鮮半島や中国の影響が指摘され、東アジア全体を見据えた研究の必要性から始まった。第1弾として79年に現所長の菅谷文則(75)が中国・北京大に留学した。「現地で学んだ研修生は皆、視野を広げた。私も行って良かった」と振り返る。「中国や韓国との研究連携は今やスタンダード。壁画の発見以来、研修生を派遣し続ける研究機関は、橿考研以外ほとんどない。これが奈良県の度量」と胸を張る。

 これまで14の国・地域と交換留学や研究員の受け入れなどをしてきた。調査員や講師の派遣では、シリアなどシルクロード沿いを中心に約20か国に及ぶ。世界の文化財保護に貢献し、技術も還元してきた。

 かつて奈良にはシルクロードを経由してはるか西方の文物が届いた。西藤は強調する。「古代の終着点だった奈良の研究所が、現代では、文化財の保護・保存の出発点になった」(敬称略)

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27416 0 モノ語る―橿考研80年― 2018/06/26 05:00:00 2019/01/16 11:32:13 測量会社社員(左)と橿考研職員(右から3人目)の指導を受けて測量技術の基本を学ぶシリア政府古物博物館総局の職員ら(橿原市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180625-OYTAI50022-T.jpg?type=thumbnail

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