<中>幻の計画 地域の資源

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ブルーノ・タウト
ブルーノ・タウト

 ◇タウトの山上都市

 生駒ケーブルの生駒山上駅を降り、緩やかな階段を進むと、右手に高さ30メートルの山上遊園地の飛行塔、正面では瀟洒しょうしゃなホテルが迎えてくれる。ホテルを起点に等高線上に道が広がり、周りには和風建築の別荘が立ち並ぶ。その中央を貫く道路には、桜並木が延びる――。

 そんな自然と調和した豊かな「山上都市」を思い描いた人物がいる。1933年10月23日、ケーブルカーを乗り継ぎ、生駒山上に降りた世界的な建築家ブルーノ・タウトだ。

 その4年前、生駒ケーブル山上線が開通するとともに、山上遊園地が開園。近鉄の前身である大阪電気軌道(大軌)は、さらに山上の開発を目指した。ナチスに支配された祖国ドイツで迫害を受け、職を失い、日本に亡命していたタウトにその未来の設計を描く仕事を託した。

 活躍の場を求めたタウトは、日記に大阪、生駒双方に山裾が伸びる生駒山の美しさ、広大な眺望などを書き留め、仕事への意気込みをつづった。

 〈美しい山上小都市ができればいいのだ!〉〈これこそ「都市の王冠」だ! 私にこれまで与えられた最も素晴らしい課題の一つである〉

 タウトは計画図面を仕上げたが、大軌の思い描いたものとは違ったらしい。計画は実現されず、タウトは36年、わずか3年半で日本を離れた。奈良市の大和文華館には、その計画図面3点が残されている。

     ◇

 「計画は実現しなかった。しかし、この計画が存在したこと自体が地域にとっての資源だ」。生駒市いこまの魅力創造課職員の森康通さん(48)はそう指摘する。

 森さんは、情報技術を使って生活の向上を目指す市民グループのメンバーでもある。グループは2016年、生駒市内で市民講座を計画し、タウトに詳しい広島大の杉本俊多名誉教授(近代建築史)に講師を依頼した。森さんは、生駒山の歴史や建築にあまり精通していなかったが、杉本名誉教授を迎えるにあたりタウトについて調べた。様々な資料を集めるうち、山上都市計画に夢中になった。

 森さんは今年初め、県内の建築家団体から、山上都市計画についての講演を依頼された。「プロの前で何を語るか」。思いついたのが、タウトの計画を動画で再現することだった。

 図面を立体データ化したものを杉本名誉教授から譲り受け、ネット上の地図「グーグルアース」を利用して作成。生駒山の尾根筋から山頂へ向けて上がり、タウトが思い描いた山上都市と裾野に広がる街を360度ぐるりと見渡す1分半ほどの動画を制作した。4月の講演の評判も上々だった。

     ◇

 杉本名誉教授を招いた講演などを通じて、市民もタウトの計画に関心を寄せ始めた。今年7月には、生駒ケーブル100周年に合わせた市民講座では森さんが講師を務めた。

 生駒市に生まれ育った病院職員奥田陽子さん(42)は、この講座に参加し、初めてタウトの計画を知った。「私は今の姿の生駒山が好きなので、計画が実現しなくても良かった」とするが、「生駒市民にとって生駒山はシンボル。タウトも魅力に感じて計画を作ったと思うと、うれしくて誇らしい」と話した。

 生駒ケーブルは、世界的な建築家が手掛けた山上都市への足になっていたかもしれない。森さんは「幻で終わった計画だが、その存在を知ってもらうことでまちの魅力の再発見につながるんです」。そう興奮気味に語った。

<メモ>メモブルーノ・タウト(1880~1938年)=写真=はドイツに生まれ、第1次世界大戦後、ベルリン市内で劣悪な住宅環境に置かれていた労働者階級のため、採光や風通しに配慮した集合住宅の建築を手掛けた。その集合住宅は2008年、世界遺産に認定されている。

 京都・桂離宮を「泣きたくなるほど美しい」と絶賛した一方、栃木・日光東照宮の豪華な装飾を「威圧的で親しみがない」と批判した。日本に現存するタウトの建築は、静岡県熱海市にある「旧日向別邸」の地下室のみ。この地下室は06年に重要文化財に指定された。

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41957 0 ケーブルのあるまち 生駒山の100年 2018/09/22 05:00:00 2018/09/22 05:00:00 ブルーノ・タウト https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180922-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

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