<下>戦後復活、市の宝

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1、2号線が同時運行し、4両が一列に並んだ「奇跡の瞬間」(左から「ブル」「ミケ」「白樺」「すずらん」)=近鉄提供
1、2号線が同時運行し、4両が一列に並んだ「奇跡の瞬間」(左から「ブル」「ミケ」「白樺」「すずらん」)=近鉄提供

 ◇戦争と金属供出

 「それでは、どうぞ!」

 7月下旬、生駒ケーブル鳥居前駅で開かれた100周年イベントの記念式典。司会の女性の朗らかな声を合図に、約300人の拍手に送り出された車両「ミケ」と「白樺しらかば」が、山腹にある宝山寺駅に向けて走り始めた。

 生駒ケーブルは、輸送力を増強するため、開業から8年後の1926年、複線化。乗客が減少し、現在は車両「ブル」と「ミケ」が走る1号線のみの運行だが、この日は特別に1、2号線が運行した。鳥居前―宝山寺の中央部分で下ってきた「ブル」と「すずらん」と並んだ。

 全国で唯一、複線化している生駒ケーブルでしか見られないわずか「数秒の奇跡」。4両が並んだこの瞬間を記念写真に収めようと踏切には大勢が群がった。

1929年の遊園地開業以来、一番人気の飛行塔。戦時中は監視塔に利用された(生駒市で)
1929年の遊園地開業以来、一番人気の飛行塔。戦時中は監視塔に利用された(生駒市で)

 かつてケーブルカーの複線には「空白の9年」があった。41年8月に金属類回収令が出され、線路や車両が、戦争のため供出されたからだ。

      ◇

 宝山寺駅の事務所には、ケーブルの運行の回数や輸送人員、使用電力などを記したA4判ほどの「運転日誌」が残る。

 戦争が影を落とし始めたのは、44年2月11日。〈鋼索線営業休止〉〈便乗運転〉と墨書きされ、ケーブルの営業がなくなり、一般の客は「便乗」しかできなくなったことがわかる。

 同年5月には〈宝山寺―生駒山上間 便乗停止 海軍専用トナル〉と記された。金属不足を補うため、6月には〈第2号線ヨリ撤去作業着手セリ〉と、線路とケーブルカーの撤去が始まったことが淡々とつづられた。

 戦後、ケーブルは営業を再開したが、宝山寺線が再び複線に戻ったのは53年4月。生駒ケーブル区長の黒川高行さん(52)は「当時は『お国のため』と受け入れるしかなかったはず。大切にしてきた線路や車両を戦争で奪われて、つらかっただろう。今があるのは、先輩たちのケーブルを守ろうとした気持ちのおかげです」と感謝する。

 山上を訪れる人たちを90年にわたり楽しませてきた山上遊園地の遊具もまた、戦争の爪痕が残る。

1944年2月11日の運転日誌。ケーブルの営業休止が記されている
1944年2月11日の運転日誌。ケーブルの営業休止が記されている

 標高642メートルの生駒山の山上にそびえる「飛行塔」。高さ30メートルを誇り、0歳の子どもから乗ることができる。29年の遊園地開業以来、姿も場所も変わらず稼働し続け、現存する国内最古の遊具だ。飛行機形のゴンドラ4台が約20メートルの高さを回り、360度を見渡せる。視界の良い日には明石海峡大橋の先まで見えるという。

 その眺望の良さを買われ、飛行塔は海軍に接収された。ゴンドラは外され、塔の上の展望台で米軍機の来襲を監視した。

 遊園地の広報担当・木村洋三さん(46)は「生駒山上にあったため戦時供出を免れた。戦後も遊園地のシンボルとして愛されてきた飛行塔の存在はまさに奇跡。この山上からの眺望を心から楽しんでもらえる時代が続くことは、本当に幸せなこと」と語る。

      ◇

 宝山寺参道や生駒山上の変化を見守り続け、戦争の苦難も乗り越えた生駒ケーブル。記念式典で小紫雅史市長は「市の顔として、宝として、これからも発展していってほしい」とあいさつした。平成最後の年に100周年を迎え、新しい時代になっても変わらず力強く山上へと駆け上がる。

(この連載は松浦彩が担当しました)

<メモ> 生駒山上一帯は戦時中、軍事利用された。1940年には、人材育成と航空への関心を高めるため、主に航空灯台、記念館、寮からなる「生駒山航空道場」が完成した。それぞれの建物には最新式の迷彩柄が施されていたという。

 同年、近鉄の前身・大阪電気軌道も、現在の生駒山上遊園地駐車場がある場所に大滑空場を整備した。戦前は「空の拠点」に様変わりした歴史がある。

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42037 0 ケーブルのあるまち 生駒山の100年 2018/09/24 05:00:00 2018/09/24 05:00:00 7月21日のセレモニーでは、特別に1、2号線が同時運行し、4両が一列に並んだ(近畿日本鉄道提供)(生駒市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180923-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

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