<7>技と心意気「多子相伝」

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再建された中金堂の中で、「次の時代に技術を継承することも大切な使命」と語る国樹さん(奈良市で)
再建された中金堂の中で、「次の時代に技術を継承することも大切な使命」と語る国樹さん(奈良市で)
「若い職人には、粘り強く技術を身に付けてほしい」と話す会長の瀧川昭雄さん(桜井市で)
「若い職人には、粘り強く技術を身に付けてほしい」と話す会長の瀧川昭雄さん(桜井市で)
巨大な柱がそそりたつ姿が現れた再建中の中金堂(2010年9月21日、奈良市で)
巨大な柱がそそりたつ姿が現れた再建中の中金堂(2010年9月21日、奈良市で)

 ◇文化財と宮大工

 昨年10月、世界遺産・興福寺(奈良市)の境内に鮮やかな丹色にいろのランドマーク「中金堂ちゅうこんどう」が、301年ぶりに奈良時代の姿でよみがえった。木材選定のため、海外を駆け巡った期間も含めると再建には平成と同じ約30年間かかった。高さ約21メートルの豪華な木造建築を生み出したのは、「曲尺かねじゃく」と呼ばれる直角の物差しを手に、細部の曲線一つにまで神経を研ぎ澄ます宮大工の繊細な技術だ。

 国宝や重要文化財を含む数々の寺社建築の修理や、平城宮跡(奈良市)の朱雀門や大極殿の復元を担ったたき川寺社建築(桜井市)は、その技術を次の時代に継承することも重要な使命と考えている。

 「宮大工は、先輩の仕事を見て盗み、自分でやって体で覚えないといけない。中金堂や平城宮の復元などの現場は、若い職人にとって最高の教材だった」。同社会長の瀧川昭雄さん(85)は話す。

 県の文化財保存課に勤め、東大寺大仏殿(奈良市)などの修理を担当した。1980年に退職し、親族の工務店を継いで瀧川寺社建築を創業。法隆寺(斑鳩町)や唐招提寺(奈良市)、当麻寺(葛城市)など数多くの歴史的建築物の修理に携わった。

 三角関数などの複雑な計算をしながら、曲尺を駆使して設計する「規矩きく術」や、木材を削る道具「ヤリガンナ」を扱う技術は一朝一夕で身に付くものではない。瀧川さんは「スマートフォンで調べて終わり」が多い若い人にも、「辛抱強く学んでほしい。技術が伝わらなければ歴史ある建築物は廃れてしまう」と強い口調で言う。

 危機感を覚えたのは、約40年前に国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の依頼で、寺院修復のためにモンゴルへ派遣された時。一緒に作業を担当した現地の大工たちは、修復の技術が乏しかった。遊牧生活が主なため、建築物を修繕して残す習慣がないのだ。社会主義体制の下で破壊された伝統的なチベット仏教寺院は荒れ果てていた。「技術を継承する大切さを強く感じた。日本もひとごとではない」。帰国後、若手の教育に力を入れ始めた。

 宮大工は、棟梁とうりょうが後継ぎと見込む優秀な弟子一人だけに技術を伝える「一子相伝」の世界だったが、瀧川さんが掲げたのは「多子相伝」。2か月に1度、若い職人を集め、仕事の心構えなどを伝える取り組みは、現場から離れた今も続けている。

 瀧川寺社建築の宮大工は総勢14人。20歳代もおり、半数以上が「宮大工をやるなら伝統のある奈良がいい」と九州や関東など県外出身者だ。

 現場で共に働くベテランも若手への思いを抱く。瀧川さんのおいの瀧川真幸さん(41)は、宮大工の父に憧れてその道を志した。「仕事が忙しくて、日曜も遊びに連れて行ってもらった覚えがない。でも、父が手がけた建物を友達から褒められて誇らしかった」と振り返る。

 経験を積み、中金堂の現場では棟梁の一人として、現場を仕切った。小学5年の長男からは「お父さんの仕事は形に残るからいいなあ。自分も将来は宮大工になりたい」と言われた。

 真幸さんは、若い職人と一緒に仕事をしていると熱意を感じる一方、「自分から考えて動いてほしい」と思うこともある。若い頃、現場で怒られた後に夜遅くまで残って、がむしゃらに製図を勉強したものだった。

 中金堂の現場指揮を任されたのは、副社長の国樹くにき彰さん(64)。「手がけた仕事が1000年先まで残ることを思うと、少しも手を抜けない。見栄えをよくするため、もうひと削りだけするような、加減が必要な仕事だ」と強調する。

 そして、若い職人に対し、こう付け加えた。「建物の様式を忠実に残すことが基本だが、人の手で作るから、その時代に手がけた職人の個性も出る。こだわりを持ちながらも、謙虚な姿勢で仕事に向き合ってほしい」(おわり、水谷弘樹)

 ◇<MEMO>国宝建造物 最多

 県内には世界最古の木造建築とされる法隆寺をはじめ、1000年以上の歴史を持つ寺社建築が多数存在する。国宝の建造物は全国最多の64件。数百年に一度、宮大工が建物を解体し、柱やはりなどの部材を修理することで、その姿を現在まで残してきた。

 必要に応じて耐震補強を施すほか、設計にはパソコンを使い、最新技術も取り入れる。木材に実物大の図面を描く「原寸引き付け」や、部材を専用の道具で切り出すなど、昔ながらの技術も使う。現存しない建物を当時の建築技術や記録を調べながら、かつてあった場所に「復元」するのも、宮大工の仕事だ。

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61358 0 平成なら物語 次代につなぐ 2019/01/08 05:00:00 2019/01/08 05:00:00 瀧川寺社建築の国木副社長(左)と中金堂の現場で棟梁を務めた瀧川真幸さん(18日午前11時29分、奈良市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190107-OYTAI50051-T.jpg?type=thumbnail

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