保存・活用の最前線として
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明日香村の歴史遺産


遺跡の現地保存は文化財保護の原則だ。歴史遺産の活用が求められるなか、遺跡をどう保存し、活用すべきかが問われている。
■崩れた遺跡
亀形石造物などが出土し、実物を現地で露出展示している明日香村の酒船石遺跡で2018年6月、台風や豪雨で地盤が緩み、階段状の石垣が幅8メートル、高さ20~50センチにわたって崩落した。
「遺構が崩れたのを見るのは初めて。これは大変だと思った」。現場を目にした村教育委員会文化財課の長谷川透・主任技師(41)は振り返る。復旧・復元工事が実施され、幸い元の姿に戻すことができた。
村内にある飛鳥時代の遺跡で、遺構を露出展示しているのは、酒船石遺跡しかない。当時の風景を実感できる迫力は、何ものにも代えがたいが、発見から20年余りがたち、雨ざらしのままでは風化も避けられない。
■復元展示の是非
発掘調査が進む大規模な庭園跡「飛鳥京跡苑池」でも、実物の石敷きなどを見せるかどうか、12年度に始まった保存整備・活用検討委員会で議論が白熱している。酒船石遺跡のケースで実物展示のリスクが明確になり、実物は土で覆い、その上に復元したレプリカを設ける方向で検討が進む。
しかし、復元展示にも課題は残されている。
県立万葉文化館の建設に伴って見つかった飛鳥池遺跡。1999年の調査で日本初の貨幣・富本銭が鋳造され、ガラス玉や金銀製品などを作った総合工房跡だとわかり、保存運動が展開された。だが、県は中庭に遺構の一部を復元展示し、館内で調査成果を常設展示することで、遺跡を“保存”したという形にした。重要な遺跡にもかかわらず、登録を目指す世界遺産の構成資産になっていない。
復元展示は開館から約20年がたって劣化し、今年1月に開かれた万葉文化館のあり方を考える検討委員会で再整備が提案された。復元展示も万能ではない。
■「進化する整備」
世界遺産登録でレプリカや復元展示がどこまで許されるのか、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会の判断基準すら揺れているのが現状だ。
村文化財顧問の田辺征夫・元興寺文化財研究所長(76)は「万全な復元整備はなく、遺跡を取り巻く環境も変化する。研究の進展と社会の要請に応じ、柔軟な『進化する整備』を目指すべきだ」と語る。
明日香を守る取り組みが始まって半世紀。今も日本の遺跡や歴史的風土の保存と活用を考える最前線であり続けている。(関口和哉、終わり)