<1>逆境転機に
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お茶屋「つるや」
舞子の伝統、素顔動画発信
色鮮やかな振り袖姿の3人が、三味線の音色に合わせて優雅に舞う。花かんざしが髪を彩り、足元まで垂れ下がった
舞台に立つのは、興福寺の南に残る花街・
全国の芸
「せっかくなら舞台でできないことをしましょう」。お座敷を飛び出した菊乃さんらは、「竹取物語」をテーマに平城宮跡や浮見堂など奈良市の様々な場所で撮影。三味線の「奈良音頭」とテクノポップを融合したオリジナルの舞も初披露した。親交のある映像クリエイターらの協力を得て約30分の動画にまとめた。
元林院は、猿沢池のほとりに明治時代に開けた花街で、全盛期の大正時代から昭和初期には200人ほどの芸妓・舞子がいた華やかな花街だったとされる。1970年代頃から衰退を始め、今では菊乃さんらつるやの4人だけだ。
舞子の
つるやでは、昨年3月上旬頃からお座敷のキャンセルが相次ぎ、4、5月は店も休業。その間、3人はマスクを作って客に送ったり、稽古に励んだりして過ごした。菊愛さんは「お客さんの前で芸を披露するという日常が、がらっと変わりさみしかった」と振り返る。
6月に営業は再開。しかし、踊るときにはフェースシールドを着け、客との距離が近くなるお座敷遊びも自粛し、思うように活動できない日々が続いた。
空いた時間を生かし、力を入れたのが動画投稿サイト「ユーチューブ」への投稿だ。舞子を身近に感じ、伝統文化をつなぐ若い世代に興味を持ってもらおうと、昨年1月に「ならまち花あかりチャンネル」を開設したばかりだった。
これまでに70本以上の動画を作った。舞子の着付け、化粧の仕方、持ち物の紹介といった日常のありのままの姿を映し出す。羽根つきで対戦して罰ゲームをしたり、激辛やきそばを食べるのに挑戦したりするなかで、無邪気に笑って楽しむ素顔も垣間見られる。
動画の登録者は約4000人、再生回数は計40万回を超える。動画を見た若い女性から「舞子の仕事について詳しく教えてほしい」などの問い合わせも数件あったという。
コロナ禍で進めた芸妓・舞子のイメージにとらわれない活動には、花街のにぎわいを取り戻そうとする菊乃さんの信念がある。「伝統を守るには、伝統にこだわりすぎず、新しいことをやっていくことが大事なんですよ」(山口佐和子)
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新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちに不安や混乱をもたらした。これまでの経験を生かして、新たな発想で困難に立ち向かう人たちの姿を追った。