<9>文化発信 離れていても
完了しました

有料ライブ配信を開始 奈良市のライブハウス ビバリーヒルズ
芸妓の舞、講談、殺陣、漫才……。奈良市のライブハウス「ビバリーヒルズ」の舞台に、個性豊かなゲストが交代で登場し、いつもとは異なる趣向で彩られる。
「色んなジャンルの芸がコラボしたものを作ってみたかった」。代表の坂口照太郎さん(42)が、昨夏に始めた有料ライブ配信「旬歓芸 大和あそび」。ミュージシャンのライブ映像に交えて配信している。ライブの入場客が限られる中、配信映像は番組の多彩さを武器に視聴者を増やし、収益源に育ちつつある。
1980年にオープンしたビバリーヒルズは、2003年に先代オーナーの父が病に倒れ、坂口さんが後を継いだ。「関西でもトップクラスの高音質」と定評がある老舗も昨年2月、大阪市内のライブハウスで新型コロナウイルスの感染者が相次ぐと、逆風に見舞われた。
100本以上のライブが中止や延期。損失は1000万円以上にも達し、家賃の支払いも滞った。「芸術や音楽は、気持ちに余裕がある時にしか成り立たない。やめてしまおうか」。気持ちが折れそうになった。
支えてくれたのは、出演者や常連客たち。「維持費だけでも確保したい」。Tシャツやバンダナなどの「義援グッズ」の作成を決めると、ミュージシャンの押尾コータローさんや俳優の加藤雅也さんら約60人がグッズに印刷するメッセージを寄せてくれた。ネットなどでも販売しており、売り上げは約500万円に達し、勇気づけられた。
コロナ禍でライブの動画配信はすでに主流になりつつあったが、気乗りしなかった。「生で見てこそ。映像では空気感や音が伝わらない」。しかし、高齢になった常連客からも「配信があるとうれしい」という声もあり、決心した。
質の高い音が配信できる機材をそろえるため、クラウドファンディングにも踏み切った。「奈良の音楽文化の灯を消えさせないため、何でも挑戦したい」

手紙を基に本を推薦 人文系私設図書館 ルチャ・リブロ
都会から離れた場所から文化の発信に力を入れる人たちもいる。
青木真兵さん(37)と
夫妻は元々、兵庫県西宮市に住み、真兵さんは大学で非常勤講師、海青子さんは司書などをしていたが、2人とも体調を崩し、16年4月に東吉野村に移住。川沿いにぽつんとたたずむ古民家の自宅の一部を開放し、多くの蔵書を生かせる図書館を開いた。
月10日程度開館し、歴史や文学、哲学などの人文系の本を中心に3000冊以上を貸し出している。のんびり読書が楽しめる場として親しまれ、九州から足を運ぶ人もいる。
コロナ禍で昨年4~5月は休館した。何かできることはないかと考えていた時、親交のある出版社から、自粛中におすすめの本について夫妻での対談を依頼され、思い立った。「コロナで様々な決断を迫られ、苦しい思いをしている人に本だけでも決めてあげたい」。往復書簡のアイデアが生まれた。
感染拡大はオンライン配信を活発にした。都会から離れた村にいても、文化を発信するハードルが下がったように感じた。2人は意外な変化に期待を込めている。「オンラインだけではなく、様々な方法で発信を続け、文化の拠点として村に根ざしていきたい」
(山口佐和子)
(おわり)