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<2>手足で練り 完成に5年

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奈良墨

古梅園(奈良市椿井町)

墨を練り、型に入れる作業をする墨匠(奈良市椿井町で)
墨を練り、型に入れる作業をする墨匠(奈良市椿井町で)
「紅花墨」(手前右)など古梅園の様々な墨
「紅花墨」(手前右)など古梅園の様々な墨

 小さな黒い塊をぐいぐいと手でこね、音を立てて素足で踏み、さらにちぎってはこねる。手も足も、服まで真っ黒。まるで格闘しているかのようだ。

 安土桃山時代の1577年に創業した奈良市椿井町の製墨業「古梅園こばいえん」。5人の墨匠(職人)が、伝統の墨作りに励む。

 窓のない採煙蔵では、菜種油を入れたかわらけにイグサを編んだ芯を立て、1室に100個の炎が燃える。それが4室あり、炎の上にかぶせたふたにすすがたまり、1日で合わせて50~100個分の墨の原料になる。

 飛鳥時代の610年、朝鮮半島・高句麗の僧・曇徴どんちょうが製墨法を日本に伝えたとされる。その後、製墨法は奈良の地で発展し、油煙を使った墨は1400年頃、興福寺(奈良市)で作られたのが始まりと言われる。

 採ったすすは、5~10年寝かせた後、にかわの溶液とよく混ぜ合わせる。「墨が乾燥したときに曲がらないよう、肌がきれいになるよう、よくもむことが大事」と工場長の本橋大司さん(56)は語る。

 手足を使って練り上げた墨は、木型に入れて押し固めた後、灰に埋めて乾燥させる。最初は水分の多い湿った灰、次第に水分の少ない灰に埋め替える。乾燥するまで小型で1週間、大型だと30~40日かかる。

 次いで、わらで編んで天井からつるし、1~6か月、さらに自然乾燥させる。乾燥後は、付着した灰を水で洗い落とし、表面を滑らかに磨いて光沢をだし、最後に金粉や銀粉、顔料で彩色をしてできあがる。

 「全ての作業が大事。それぞれがバトンを確実につなげば、おのずといいものができる」と本橋さん。早ければ半年で形になるが、製品になるのは4~5年はかかる。年月がたってよく枯れたものが珍重されるため、約100年たったものもあるという。

 「普通のものと違って、なくなったからといってすぐ作れない。かといって在庫が多すぎると困る。中長期的な視野で製造しなければならないんです」と営業部長の竹住享たけすみすすむさん(61)は説明する。

 古梅園が1739年に開発し、今に伝わる「紅花墨こうかぼく」は全国で広く使われ、墨の代名詞になったという。僧侶や役人だけではなく、庶民にとっても長く必需品だった墨。古梅園の歴史は、日本の墨の歴史に重なる。

 <メモ> 約200種類の品ぞろえがあり、「紅花墨」は税込み2200~3万8500円。全国の書道用品専門店で扱っている。京都市中京区に古梅園の支店(075・231・1531)もある。問い合わせは平日午前9時~午後5時、古梅園(0742・23・2965)。

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2024155 1 ならの手仕事 2021/05/01 05:00:00 2021/05/01 05:00:00 2021/05/01 05:00:00 墨を練り、型に入れる作業をする墨匠(奈良市椿井町で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210501-OYTAI50003-T.jpg?type=thumbnail

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