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<7>書の個性 引き出す獣毛

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奈良筆 あかしや(奈良市南新町)

「同じ材料を使っても、作り手によって違う筆ができる」と語る松谷さん(奈良市南新町で)
「同じ材料を使っても、作り手によって違う筆ができる」と語る松谷さん(奈良市南新町で)
ヤギやイタチなど様々な獣毛で作られた筆
ヤギやイタチなど様々な獣毛で作られた筆

 ウサギ、タヌキ、イタチ、ムササビ、ネコにスカンク――。これらは全て、毛が筆の材料になる動物だ。

 「どんな動物の毛でも筆になるが、一つだけ条件がある。それは毛先があること」。奈良市南新町の奈良筆製造・販売「あかしや」の伝統工芸士、松谷文夫さん(71)はこう説明する。「はさみで切ると、毛先がなくなる。だから最初にはさみを入れた赤ちゃんの髪の毛の筆が、一生に一度しか作れない記念品になるんです」

 原料として「絶品」とされるのが、ヤギ。中国の長江下流域で飼育されているもので、雌雄の別や部位によって数十種類に選別される。「墨の含みが最もよく、長持ちする」という。

 獣毛を使った筆は、紀元前221年に中国を統一した秦の始皇帝に、武将・蒙恬もうてんが献上したのが始まりという説が伝わる。日本には遅くとも6世紀頃には伝来したとみられ、飛鳥・奈良時代には、木簡に文字を書いたり写経をしたりするのに使われた。奈良時代の筆が、正倉院に伝わる。

 平安時代初期の9世紀、空海(弘法大師)が中国から新しい製法をもたらし、今井(橿原市)の筆匠に筆を作らせ、嵯峨天皇に献上した話が知られる。

 日本の筆の発祥地と言える奈良の地で、あかしやが創業したのは江戸時代中期の1716年。松谷さんは「火災で文献が焼失しているので、創業はさらに古い可能性もあります」という。

 筆作りに機械は使わない。毛の1本1本が全て異なるからだ。まず、毛をくしで整えた後、もみがらの灰をふりかけて温め、脂肪分を抜く。

 次の「寸切り」が、最も重要な工程という。性質の異なる様々な獣毛を長短に切り分けてそろえる。「ここできちんと作れなかったら、後でどんなに丁寧にしてもだめになる」と松谷さん。その後、ばらつきや偏りがないよう何度も手で練り混ぜる。

 作る筆の穂の太さに応じて、コマと呼ぶ小さな筒に通し、見栄えをよくする上毛を巻き付け、根を麻糸で結ぶ。最後に、フノリの液につけて絞り、乾燥させて完成となる。

 松谷さんが筆作りに携わって40年余り。「書は個性や感性の世界。自分では満足いく出来でも、使う人が不満を感じるかもしれない。何十年やろうが、これでいいということはない。全ての人に気に入ってもらえる筆は、一生できないんじゃないかな」と笑う。

 熟練の技が、子どもから書家まで、多様な個性や感性を支える。(関口和哉)

〈メモ〉 約1000種類の品ぞろえがあり、売れ筋は、半紙の楷書用が1100~3300円、細筆が1100~2200円(いずれも税込み)。筆作りの見学と体験ができるショールーム(日曜休み)がある。問い合わせは、あかしや(0742・33・6181)。

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2120453 0 ならの手仕事 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 「同じ材料を使っても、作り手によって違う筆ができる」と語る松谷さん(奈良市南新町で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210612-OYTAI50035-T.jpg?type=thumbnail

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