<1>夢描き続け 実現

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たんぽぽの家を支える芝さん。創作意欲は衰えていない(桜井市で)
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幼い哲二さんを抱く美代子さん
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奈良市のパートナーシップ宣誓証明カード
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障害者も生き生きと働く県立医科大付属病院(中央が岡山係長、橿原市で)
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 障害者 安心できる場所を

 チャリティー絵画展を開く油彩画家 芝芳雄さん(桜井市)

 興福寺の五重塔、イタリアの水上都市――。アトリエに所狭しと風景画が並ぶ。95歳の今は通院が欠かせず、最近も肺の手術を受けたばかりだが、筆致は力強い。

 桜井市の油彩画家、芝芳雄さん。27回にわたってチャリティー絵画展を開き、3000万円を超える収益を全て、障害者就労支援センター「たんぽぽの家」(奈良市六条西)に寄付してきた。運営には携わらない。障害者を陰で支える「あしながおじいさん」だ。

 利用者は好きな分野で芸術活動に取り組み、給料も得る。芝さんは「みんなの笑顔が何よりの栄養剤」と目を細める。ただ、その胸から、センター開設に奔走した妻の美代子さん、脳性まひを抱えた次男の哲二さんが消えることはない。2人は永い眠りに就いている。

 哲二さんは生まれつき体が不自由で、会話も満足にできなかった。昭和30~40年代。地元の学校へ通わせようとすると、「通学させる意味あるの?」という心ない声が聞こえた。芝さんは「この子は将来、どう生きていけばいいのか」と悲観しそうになった。

 一方、美代子さんは「障害を持つ子どもが安心して過ごせる場所を作りたい」と前を向いた。同じような境遇の母親らと力を合わせ、1973年に支援センターの建設運動を開始。講演で障害者を守る大切さを訴え、全国で寄付を募った。

 「施設が建つと、土地代が下がる」と時に反対も受けたが、美代子さんたちは一歩も引き下がらない。展示会で数々の受賞歴のある芝さんも「妻にはこれまで自由にさせてもらった」と協力し、74年に初のチャリティー展を開いた。

 ところが、数年後、完成を待たずに、哲二さんが20歳の若さで息を引き取った。「友達とずっと笑って暮らせる家ができるんだ」。そう待ち望んでいた夢の空間。芝さんは哲二さんの願いを筆に込め、描き続けた。

 80年5月、「たんぽぽの家」はオープンした。風に乗った綿毛が各地で根付くように、子どもらが希望を持てる場所を広げていこうという思いが込められた。

 10人ほどで始まった「たんぽぽの家」には今、約60人が通う。感性の光る作品は障害者、健常者の枠組みを超え、高く評価されるようになった。昨年も、大手企業が新たにオープンした奈良市内の研修施設で作品を展示。芸術を学ぶ学生との演劇も昨年12月に実現し、40席の前売り券は完売した。

 脳性まひの 上埜うえの 英世さん(61)は民話の語り部として、各地で400回を超える舞台をこなしてきた。「この場所は生きがいを与えてくれた。メンバーは私の家族のようなもの」

 活動を見守った美代子さんは2015年に病気で他界。芝さんは介護のため、長らく創作を中断していたが、「息子と妻の夢だった、たんぽぽの家を応援するのが自分の役目」と、20年に再び筆を握った。未完成の作品は約50点。今秋、28回目の絵画展を開くつもりだ。

 障害を持つ人たちが社会に溶け込み、笑い合える。それだけを願っていた美代子さんと哲二さん。2人はきっと今も、笑顔の咲く「家」を見守ってくれている。(岡本与志紀)

 昭和から平成、令和と時が流れ、多様な価値観が尊重されるようになった。障害や性別、国籍など乗り越えるべき壁はたくさんあるようで、求められるものはいたってシンプル。優しさであり、心のつながりである。「共生」をテーマに、奈良の物語をお届けする。

 実雇用率 全国1位

 障害者の自立のために欠かせないのが就労だ。昨年、県内の障害者の実雇用率は、3年連続で全国1位となる2.88%だった。法定雇用率(2.3%)を達成している企業の割合も同5位の61.5%にのぼり、障害者への理解は進んでいる。

 一方、障害者にとっては、親や自身の高齢化という問題もある。「たんぽぽの家」の利用者も20~60歳代と幅広く、支援団体「奈良たんぽぽの会」の村上良雄会長(72)は「彼らが取り残されないためにも、個性を生かし、輝ける社会を作らないといけない」と強調する。

 笑顔の輪広がる

 県内でも共生の輪は広がっている。障害者の雇用や性的少数者への支援が進むほか、学生や外国人が地域と協力し、魅力を引き出す事例も増えてきた。

 性的少数者に理解

 奈良、生駒、天理、大和郡山の4市は、性的少数者をカップルとして公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入。奈良女子大は2020年から、戸籍上は男性でも女性の心を持つ「トランスジェンダー」の学生を受け入れている。

 外国人が移住

 豊かな自然が残る県南部では、移住した外国人が地域の魅力を発信している。十津川村で16年から暮らすフランス人のジョラン・フェレリさんは、木々に張ったつり橋やツリーハウスで、高さ4~12メートルの生活を満喫できる施設を計画。村側も協力し、20年に「空中の村」としてオープンした。

 日本の陶芸に影響を受ける米国人の芸術家、フランシス・ブリベンさんは20年から、清流で知られる東吉野村で活動。インスタグラムなどで、古民家や草花と調和した「和の作品」を発表しながら、村民との交流を深めている。

 県立大(奈良市)×御杖村 高齢者と学生交流

 御杖村と連携したのは、県立大(奈良市)の地域創造学部の学生。何度も村を訪ねては、お年寄りから食文化や郷土料理を学び、同村の食材でコース料理を提供するレストランを企画した。昨年11月、1か月間の週末限定で開店したところ、連日満席の大盛況だった。

 同大学の小園智帆さん(3年)は「本質を受け継ぎながらも、若者に受け入れやすい形にすれば、地域の文化を守っていけるのでは」と提案。村側も「村作りの新しい可能性を示してくれた」と感謝し、企画後も学生らと交流を続ける。

 障害者を雇用 県立医科大(橿原市)

 県立医科大(橿原市)は66人の障害者を雇用。付属病院で働く障害者も、タオルの袋詰めや包帯の準備、新型コロナの入院患者のための買い出しなどを担当し、運営に欠かせない存在となっている。

 以前は現場から「話が伝わらない」との声もあったが、障害者をまとめる人事課の岡山弘美係長が「具体的に短く指示すれば、彼らは理解できる」と説明し、環境が少しずつ改善された。岡山係長は「仕事を覚えるのに時間はかかるし、得手不得手もある。でも『できない』という先入観は持たないで」と呼びかける。

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2644305 0 ここにいるよ 共に生きる奈良 2022/01/01 05:00:00 2022/01/02 21:06:37 2022/01/02 21:06:37 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220102-OYTAI50038-T.jpg?type=thumbnail

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