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気候や地形 栽培に適す


閑静な住宅地で知られ、農業のほとんど行われていない王寺町で、新たな特産品が誕生しようとしている。数年前からオリーブが栽培されており、今年は約550キロの実を収穫。比較的雨量が少ないため、乾燥に強いオリーブの育成に適しているといい、町は「1次産業がほぼゼロの町の名物になれば」と期待を寄せている。(平野和彦)
1次産業ほぼゼロの町 期待
JR王寺駅から車で約10分。住宅街に接する30度の急斜面に、約3ヘクタールのオリーブ畑が広がる。2017年から単身、栽培に取り組む同町の池田興仁さん(63)が「王寺町にオリーブ。意外でしょう?」と笑った。地元で長く勤めた郵便局を退職後に本格的に栽培。「親類に聞くと、オリーブが育てやすそうだった」と振り返る。
同町一帯の年間降水量は1300ミリほど。温暖な気候で、国内有数のオリーブ産地の香川・小豆島に近い。しかも、生駒山、信貴山から吹き下ろす強風が急斜面の畑ではね返るおかげで、受粉しやすく、害虫がつきにくいという。池田さんは「虫がつかないから無農薬。水はけもいいし、手間がかからない」と話す。
畑の土地は町有地。以前は雑木が生い茂り、半ば放置された状態だった。「偶然、見つけた」という池田さんが、オリーブ栽培に手を挙げると、景観のひどさや虫の多さに悩まされていた町側は「願ってもいない話」と管理を委託した。
池田さんは小豆島の生産者を訪ねてノウハウを学び、これまでに植えたオリーブの木は約1000本。昨年から実が収穫できるようになり、今年は一気に10倍の量が取れた。収穫時は地域の輪を広げようと、近くのお年寄りや障害者らに手伝ってもらった。
この秋、オリーブオイルを製造したところ、「香りがいい」「白身魚に合う」と評判は上々。町と提携する大阪産業大の学生が、名称やボトルのデザインを考え、「大和のしずく」として、奈良ホテル(奈良市)へ試験的に販売し、実際の料理に使ってもらった。化粧品やせっけん、ピクルスなどをつくる構想もある。
池田さんは、別の場所の田畑でもオリーブの栽培を試みており、「休耕田でも育つとなれば、王寺町を中心にオリーブ産業ができる可能性がある」と夢を膨らませる。子育て世代の多い町に、「平和の象徴」の木が根付こうとしている。