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岡山理科大講師 千葉謙太郎さん 36(倉敷市)
がんは、長年、日本人の死因第1位となっている。多くの人を苦しめている病気に、実は恐竜もかかっていたことを、カナダの研究チームとともに世界で初めて確認した。恐竜の脚の化石を分析した論文は2020年8月に著名な雑誌に掲載され、反響を呼んだ。「異分野の専門家との連携でブレイクスルー(突破口)が生まれる」と力を込める。

サイエンス、ランセット、セル――。これらは驚くような発見や優れた論文だけが載る雑誌で、多くの研究者が掲載を目指してしのぎを削る。医学誌ランセットの姉妹誌ランセット・オンコロジーに、白亜紀後期に生息していた角竜の一種セントロサウルスが、骨のがん「骨肉腫」を患っていたことを示す論文が掲載された。
正常なものと比べて奇妙に膨らんだ骨の化石を、人の病気の診断でも使うコンピューター断層撮影法(CT)や顕微鏡で詳しく調べたり、人の骨との比較などを行ったりして分析した。研究には自身がカナダ留学時代に作製した、化石の薄片が使われた。
人のがんを扱う医学誌に、恐竜に関する論文が載るのは異例で、メディアの取材が相次いだ。「色んな方に注目してもらったおかげで、世界が広がり、次の研究に向けてチャンスが増えた」と振り返る。
札幌市出身。小学生の頃に折り紙で作った恐竜をデパートで見て、恐竜のとりこになった。その頃から知り合った北海道大の古生物研究者の研究室に出入りし、小学6年生の時には理科の教科書に載った恐竜の名前に間違いがあるのを発見したこともある。
進学した東北大ではプランクトンの化石を研究する傍ら、私費でモンゴルの化石発掘調査にも参加した。08年に北海道大の大学院に進学。新種の恐竜カムイサウルスの発見で知られる小林快次教授の下で、恐竜が洪水などで一斉に死に、大量の化石が見つかる「ボーンベッド」の発掘に従事した。
その後、カナダのトロント大に留学。18年から岡山理科大で教べんを執る。化石を輪切りにして観察すると木の年輪のような成長輪があり、この数と大きさから恐竜の年齢や成長がわかるといい、恐竜の生理機能や生態などについて教えている。
現在、化石からたんぱく質を取り出す研究を、骨や地質学の専門家と行っている。
同大は20年6月、恐竜学博物館の化石の展示方法や展示室を刷新した。アジア最大級の肉食恐竜タルボサウルスや、角竜プロトケラトプスの骨格レプリカなど100点以上が並ぶ。恐竜から鳥類に至る進化を学べるほか、化石のクリーニングをしたり、X線を用いた機器で化石の断面を撮影したりする研究室はガラス張りだ。来館者の運が良ければそれらの作業を目の前で見学でき、春休み中の小学生らも多く訪れている。
展示に関わる身として、「現在進行形で進む研究の現場を見てほしい」と語る。自身がそうだったように、恐竜の研究者を志す小学生も少なくない。未来の研究者に向けて「疑問を持ち続けることが大切。多くの人は成長するにつれて深く考えなくなってしまう。常に疑問を持ち、考え続けることが原動力だ」とアドバイスを送る。
(藤沢一紀)