笑顔の場所「よう来たね

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

ボランティア団体「あるく」の交流拠点前で話す槙原さん(中央)ら(昨年12月20日、倉敷市真備町川辺で)
ボランティア団体「あるく」の交流拠点前で話す槙原さん(中央)ら(昨年12月20日、倉敷市真備町川辺で)
5か月ぶりの再会を喜ぶ西さん(左)
5か月ぶりの再会を喜ぶ西さん(左)

◇ボランティア団体「あるく」 槙原 聡美さん 39

 浸水の影響で授業が行われていない倉敷市真備町川辺の川辺小学校グラウンドには、10畳ほどのプレハブ小屋がある。ボランティア団体「あるく」が住民らの交流拠点として建てた。

 「よう来たね」。昨年12月中旬の肌寒い朝。「あるく」を取りまとめる槙原聡美さん(39)は、笑顔で住民を出迎えた。育児や仕事の合間を縫って顔を出し、訪れる人の話し相手になっている。

 この日、小屋の前で再会を喜ぶ人たちの姿があった。被災前まで川辺地区に住んでいた西和子さん(73)。豪雨以来5か月ぶりに、近所で親しかった女性(70)と顔を合わせ、涙ながらに近況を語り合った。

 自宅を解体していること、自身の体調のこと……。西さんは、11月に50年連れ添った夫を病気で亡くしたことも打ち明けた。

 「大変じゃったなあ」。そばで聞いていた槙原さんも深くうなずいて、会話に加わった。

 「集える場所がほしい」。槙原さんがこう思い付いたのは、被災から2週間ぐらいたった頃のこと。自宅が2階まで浸水し、総社市内の実家に身を寄せていた。片付けに通いながら、人影が消えた地区に「このままでは誰もいなくなる」と危機感を持った。

 川辺は氾濫した小田川に近いうえ、低地ばかりで、地区内の約1700世帯のほぼすべてが水没した。避難所もなく、住民たちは地区外の避難所や、「みなし仮設」などでバラバラに暮らしていた。部屋にこもってしまうと孤独死の恐れもある。

 槙原さんは9月上旬から川辺小で炊き出しを始めた。近所の主婦仲間らが駆けつけて手伝ってくれた。カレー、親子丼……。献立を変えながら毎日続けるうち、SNSや口コミで知った被災者100人以上が集う場になった。

 自宅が全壊した人、家財道具が全て流された人……。みんな痛みを負ったのに笑顔で頬ばっている。「同じ境遇の人ばかりじゃからホッとする」「頑張って続けてな」。そんな言葉に背中を押された。

 10月中旬まで続けた後、仲間ら十数人で、同じ場所に「あるく」を発足させた。住民同士で一緒に歩いて行こうとの思いを込めた。午前9時から正午まで毎日開け、衣類などの支援物資を提供したり、悩みを市につないだりもしている。

 市の協力もえて、12月からは全住民が暮らす場所に、活動内容を知らせる「あるく通信」の郵送も始めた。

 西さんは現在、車で30分ほど離れた借家で一人暮らしをする。「今の家では、近くに知り合いもおらず、さみしいだけ。ここに来たら、友達にたくさん会えるから」と週2回ほど通う。

 川辺には、空き家や更地が目立つ。国や県が治水工事を進めているが、住民らの不安感は根強い。「あの濁流に流された恐怖は消えない」。そう漏らす住民もおり、どれほど戻るのかは誰もわからない。

 住民と話すとき、槙原さんが心掛けているのは「戻ってきてね」とは伝えないこと。人と人とのつながりが生まれれば、自然と帰りたくなる――。そう信じて、今日も「よう来たね」と声を掛ける。(阪悠樹)

 ◇自治体孤立防ぐ活動

 自治体も、被災者の孤立を防ぐ取り組みを進めている。

 倉敷市は昨年10月、市真備支所に「支え合いセンター」を設置。これまでに保健師らが「みなし仮設」などで暮らすお年寄りや独居者ら約1700世帯を訪問した。生活状況や悩みなどを聞き取っており、当初6人だった体制を36人に増員して見回り活動を強化している。

 背景には、2016年の熊本地震で、みなし仮設などで誰にもみとられずに「孤独死」した被災者が20人以上に上ったことがある。

 県も、被災者宅を巡回する生活支援相談員を養成する研修会を実施するなどして、支援体制の充実を図っている。

無断転載禁止
61131 0 あゆむ 西日本豪雨 2019/01/03 05:00:00 2019/01/03 05:00:00 「あるく」の事務所前で話すメンバーたち(倉敷市真備町川辺の市立川辺小で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190103-OYTAI50012-T.jpg?type=thumbnail

おすすめ記事

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ