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蒜山高原

観光エリアの近くに残る砲弾の観測施設(真庭市蒜山富掛田で)
観光エリアの近くに残る砲弾の観測施設(真庭市蒜山富掛田で)
蒜山高原の下井川橋を渡る野砲と騎兵(真庭市蒜山郷土博物館提供)
蒜山高原の下井川橋を渡る野砲と騎兵(真庭市蒜山郷土博物館提供)

 多くの観光客を集める蒜山高原。しかし、明治から戦中は軍事施設が置かれ、戦後は戦地からの引き揚げ者らによる苦しい開拓の歴史が刻まれるなど、戦争が暗い影を落とした。

軍事施設として

 蒜山三座や三平山の麓に、地面から1~2メートル盛り上がった土の壁がある。歴史学者でもある真庭市蒜山郷土博物館の前原茂雄館長が「軍馬育成場の痕跡です。馬が逃げないように築かれた土塁です」と教えてくれた。

 前原館長によると、日清戦争後、中国大陸での移動手段として軍馬の必要性を感じた軍部は、広大で適度な起伏がある形状が大陸に似ているとして、蒜山高原に着目。1898年に育成場の整備に着手し、1917年頃に戦車の登場などで廃止されるまで常時300頭前後を飼育した。

 育成場の廃止後、一帯は大山(鳥取県)とともに日本初の国立公園に指定されることが内定したが、35年、一転して陸軍の演習場が設置されることが決定した。エリアは高原のほぼ北半分で、模擬戦や砲弾の実射訓練のほか、重爆撃機の実弾投下訓練も行われた。

 その遺構は、別荘や飲食店が立ち並ぶ県道蒜山高原線の周辺などで確認できる。野砲が正確に着弾したかを確かめる観測施設や、集団戦の訓練を行った際に陣地として使ったトーチカなどだ。

 同博物館では現在、60人の古老の証言や歴史資料など、150枚のパネルや写真で演習場の実態に迫る「蒜山原陸軍演習場の全貌ぜんぼう―守り、伝え、誓う」を開催(9月12日まで)している。前原館長は「戦時中、蒜山では何が起きていたのかを知り、戦争の愚かさや平和の尊さを改めて感じてほしい」と話す。

開拓時代

 終戦後、演習場は国の緊急開拓地に指定され、45年暮れから引き揚げ者や復員兵、空襲で自宅を失った人らが次々と入植。雪が1メートル以上積もる極寒の冬も薄い板で仕切られた旧兵舎で暮らしながら、「不毛の地」といわれた三座の麓に広がる火山灰土壌を、クワ一本で耕した。

 しかし、日に耕せるのは10坪程度。多くは農業の未経験者で、鳥獣による被害もあって作物は十分に収穫できず、500人以上いた入植者のうち、数年で3分の2が失意のまま下山した。

 そうした中、1人の男性が57年頃、自宅用に栽培した「みの早生わせ大根」を神戸に出荷したところ、高値で取引された。冷涼な気候と特有の土壌が育んだ、甘く、歯触りが良い大根は多くの農家が栽培するようになり、「ひるぜん大根」として県を代表するブランド野菜になった。

ジャージー牛

 「1954年は、蒜山にとって忘れられない歴史的な年です」と感慨深げに語るのは、元蒜山酪農農業協同組合長の長綱元昭さん(79)だ。この年、94頭のジャージー牛が、国の施策でニュージーランドからやってきた。英仏海峡に浮かぶジャージー島原産の小柄な牛で、乳量はホルスタインより少ないが、乳脂肪分やビタミンなどの栄養分は豊富で、「米」「大根」と並ぶ<3白農業>として、困苦に耐えた蒜山の人々の生活を支えてきた。

 長綱さんも高校を卒業してすぐ、知人から子牛2頭を譲り受けて飼い始めた。亡き妻と休む暇もなく世話を続け、数年後、初めて搾乳にこぎ着けた。「無我夢中じゃったけど、『やっと出た』といううれしい気持ちもあった」と振り返る。

 高原では現在、国内最多の2000頭が飼育されており、その濃厚な乳から作られる乳製品は、蒜山を代表する特産物になっている。今では60頭を飼育する長綱さんは「ジャージーは、蒜山に欠かせない宝です」と胸を張った。(根本博行)

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使い方
2120340 0 New門@岡山 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 2021/06/13 05:00:00 観光客でにぎわう蒜山高原線から数百メートル入った畑地のそばに残る監的哨戒の跡。陸軍演習場だった当時をしのばせる(真庭市蒜山上福田。後ろは上蒜山で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210612-OYTAI50033-T.jpg?type=thumbnail

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