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スイセンが輝く「宝箱」

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早春、灯台周辺で見頃を迎えたスイセン(笠岡市の六島で)
早春、灯台周辺で見頃を迎えたスイセン(笠岡市の六島で)
ビールを造る井関さん
ビールを造る井関さん

県最南端の離島  ()(しま)

 大小3000の島々が浮かぶ瀬戸内海。県内にも多数の島があり、有人島は18を数える。コロナ禍で身近な旅が見直される中、「島旅 おかやま」では島を記者が巡り、人々の暮らしや未来に残したい風景を紹介する。初回は県最南端の離島・六島むしま(笠岡市)を取り上げる。

 ◆酒宴と炎

 琥珀こはく色のビールが、グラスで細かく泡立った。2月下旬、古民家を改装した「六島浜醸造所」で、代表の井関竜平さん(37)が、できたてのビールを注ぎ理想を語った。

 「『うまい。こんなのが、いま、飲みたかった』って言ってもらいたい」

 大阪出身で、会社勤めを経て笠岡市の地域おこし協力隊員としてIターンした。岡山市内の地ビール工房で製法を学び、約2年前、島の浜辺で醸造所を開いた。瀬戸内海産のヒジキやカキ殻も使って8種類の「離島ビール」を送り出す。

 「限界集落とは言わせない。ここが夢の宝島になればいい」と井関さん。醸造所には1杯300円から味わえるカウンター(新型コロナで休業中)もあり、夫婦で訪れた岡山市の松村絵莉子さん(32)は「日帰りの島巡りは、ぜいたくな休日の過ごし方」と、流れるジャズを楽しみ、カカオ風味のビールを飲み干した。

 穏やかな海に西日が映える夕刻。網の手入れを終えた地元漁師らが集まってきた。廃材をドラム缶にくべて、たき火を囲む通称「ドラム缶会議」。閉じた商店前の広場で、持ち寄ったビールや焼酎を片手に夜ごと繰り広げる。「70歳でも若手。人生は楽しまんと」と一人が話題を振ると、別の男性が「そういえば」と声を潜めた。

 「その昔、島のほこらに埋まる宝物を盗もうとして、にわかに腹痛になった悪者がいた。宝はまだ地中に……」と虚実ない交ぜの物語を誇らしげに語った。

 「飲んでいきゃ、ええが」 誘われて輪に加わり、ドラム缶の上の金網であぶった大ぶりのカキをほおばった。

 ◆リピーター増

 島の中央付近にある大石山(185メートル)を登ると、北に本州、南に四国が迫る。海域は潮流が速く、霧が立ちこめて操船はベテランでも難しい。幕末には坂本龍馬の海援隊が運航していた蒸気船「いろは丸」が、衝突事故で沈没した。その船体は今なお海底にあるらしい。

 1922年(大正11年)に大石山に整備された灯台の周りでは、早春、スイセンが咲き誇る。笠岡市立六島小学校の子どもたちが30年近く前、校舎そばに球根を植えたのが始まりだ。

 夏にはボランティアを募り一緒に植え、春にはその花を見るツアーが開かれている。荒れた休耕地はいつしかスイセン畑に変わり、2ヘクタールに10万本が育つ。ツアーを企画する六島まちづくり協議会の会長の三宅千歳さん(46)は、「灯台もスイセンも島の誇り。『おかえり』って迎えるリピーターが増えてきました」とほほ笑む。

 ◆ノートと唄

 港の待合所に、2冊の「六島ノート」とペンが置かれている。思い出をつづる旅人と、島の子どもたちが心を通わす〈交換日記〉で、2020年2月には、こんなやりとりがある。

 〈のんびりと1日を楽しみました。長生きできそうです〉

 〈楽しんでくださりよかったです。水仙は時期が終わりそうですが、見られてよかったです〉

 六島小児童会が管理し、書き込みがあるたびに教諭が学校にノートを持ち帰り、児童らが返事を記してきた。

 1冊目の始まった16年末、「夏は海がきれいなので楽しみに」と最初に書いた三宅拓哉さん(15)は4月、井原市内の高校へ進学して島を離れる。ノートは今春、島唯一の児童になった三宅幹助君(7)が続けるという。

 幹助君は「もっと島のいいところを知り、伝えたい」と、現在は「ユーチューバー」として活動する。3月7日には、島に伝わる祝い唄「ションガエ節」を、長老の指南で子どもや大人が歌う様子を撮影した。

 ♪この屋ご繁盛と舞を舞う ションガエ――

 動画は近く、協議会のホームページに掲載される。

 夢物語あふれるクラフトビール、気高く澄んだスイセンの香り、子どもらの笑い声……。五感を揺さぶる宝箱が、瀬戸内海のど真ん中にあった。

   ◇

◎月1回掲載します。

幼い頃の記憶 よみがえる

<さざなみのおと>

 六島の日常はすこぶる平穏で、実際には横溝作品のようなミステリー感はたぶん、ない。それでも、こりこりとした食感の特産ヒジキをポン酢で味わい、離島ビールに酔いしれ、ドラム缶の炎越しに夕映えの瀬戸内海を眺めるうち、埋蔵秘宝の話が真実味を帯びるようでわくわくした。

 別れ際、三宅幹助君がぺこりと頭を下げ、「これは六島小学校のみんなで作りました。記念に持って帰ってください」と、かわいらしい折り紙のスイセンを差し出してくれた。

 「砂浜も夕焼けも山も全部大好き」と子どもたち。原っぱに作った「秘密基地」で、「宝物」を隠して遊んだ幼い頃の記憶が、六島を歩いてよみがえってきた。(今回の旅人・岡信雄)

「獄門島」舞台

<MEMO>

 六島は、面積約1平方キロ・メートルに約50人が暮らす。名称に定かな由来はなく、大石山の山容が「六」に見えるという説や、平家の落人6人が流れ着いたという説などが語り継がれる。

 ミステリー作家・横溝正史の金田一耕助シリーズ「獄門島」は、プロローグに「ちょうど岡山県と広島県と香川県の、三つの県の境にあたっている」とあり、六島を舞台に描かれたとされる。

 笠岡市・笠岡港と六島を結ぶ旅客船が1日4往復し、約1時間の片道料金は大人1280円。ゲストハウス「島小屋」での宿泊は要予約。観光の問い合わせは笠岡市商工観光課(0865・69・2147)へ。

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1959530 0 島旅おかやま 2021/04/04 05:00:00 2021/04/04 05:00:00 2021/04/04 05:00:00 灯台そばで見頃を迎えた水仙。住民とボランティアが植えて10万本に増えた。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210403-OYTAI50008-T.jpg?type=thumbnail

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