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海の恵み 一つ星つかむ

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漁船が係留される頭島漁港。穏やかな漁村の風景が広がる(備前市日生町で)
漁船が係留される頭島漁港。穏やかな漁村の風景が広がる(備前市日生町で)
「備前☆日生大橋」から見えるカキいかだが浮かぶ海(備前市日生町で)
「備前☆日生大橋」から見えるカキいかだが浮かぶ海(備前市日生町で)
スペシャリテのリゾットをつくる寺田シェフ(備前市日生町で)
スペシャリテのリゾットをつくる寺田シェフ(備前市日生町で)

日生諸島  (かしら)(じま)

 大小13の島々からなる県東部に位置する日生諸島は、多島美が魅力で、カキやサワラ、ヒラメなど四季折々の海の恵みを存分に堪能できる。その諸島の中央付近にあるのが頭島(備前市)だ。「何もない所」と島民は笑うが、実際どうなのか。足を運び、確かめてみた。

      ◆星のレストラン

 「豊かな魚介類があるから、遠くからでもお客さんが来てくれる。本当にすばらしい島です」と「頭島レストラン」のオーナーシェフの寺田真紀夫さん(45)が迎えてくれた。

 古い郵便局を改装したレトロなイタリアンレストランは昨年10月、飲食店などを星の数で評価するミシュランガイドで一つ星になるとともに、環境への配慮など持続可能な取り組みを評価する「グリーンスター」も取得。両方を得たのは、県内ではここだけだ。

 以前は岡山市内で人気イタリア料理店を経営していたが、備前市から打診され、4年半前に島に拠点を移した。「岡山の店をたたむ必要があり、迷いもあった」と話すが、多様な海の恵みにほれ込み決断した。

 スペシャリテ(看板料理)は、頭島周辺で取れた新鮮な魚介類を使ったリゾット。訪れた日は、水揚げされたばかりのマゴチと東備地区で取れた米・ヒノヒカリ、総社市産のアスパラ菜を使った一皿で、食べると自然に笑みがこぼれるおいしさだった。

 島では魚の産卵や生育の場となる海草・アマモの再生に取り組む。デザートを除き、前菜やメインは全てこのアマモの海が育む地元産の魚を使う。「目の前にある海の恩恵で、店を営んでいける」と寺田さんは感謝を口にする。

      ◆念願の架橋

 「本当に何もない島だけどね」と笑うのは、島で長年町内会長を務めた山脇勝広さん(76)。本人は謙遜するが、ナマコやタコ漁のかたわら混獲したヒラメなどを寺田さんの店に提供する腕利きの漁師だ。

 山脇さんによると、島はカキ養殖や観光ミカン園、海水浴でにぎわった時期もあり、民宿の開業も相次いだ。だが、近年は来る人も減り、多くの民宿は廃業した。そんな島にとって、久しぶりに明るいニュースとなったのが2015年、隣の鹿久居島と本土を結ぶ「備前☆日生大橋」(765メートル)の完成だった。鹿久居島と頭島は橋で結ばれていたため、これにより本土と<地続き>となった。

 大橋の開通以前、交通手段は定期連絡船のみだった。船便のない夜間の急病人や火災に不安を抱いてきた島民は、約30年にわたり各家庭で月500円の積み立てを続け、その一部の1000万円を橋建設に活用してもらおうと備前市に寄付。のちに念願の橋が完成した。

 交通の便が良くなると、美しい景色と新鮮な魚を求め、再び人々が島を訪れるようになった。山脇さんは「移住者もいるし、島外からの訪問も増えた。ここを好きになってくれる人が増えてうれしいね」と目を細める。

      ◆島に帰る

アパレル会社をやめて島にUターンした今川環さん(左)、誓子さん姉妹。店内はパンの香ばしいかおりに包まれている(備前市日生町で)
アパレル会社をやめて島にUターンした今川環さん(左)、誓子さん姉妹。店内はパンの香ばしいかおりに包まれている(備前市日生町で)

 大橋開通を機に島に戻り、心地の良い店を作った姉妹がいる。今川環さん(58)と、誓子さん(55)。島の中央付近にある隠れ家的な「カフェ・マルベリー」を訪ねると、パンの香ばしいかおりと姉妹の笑顔が出迎えてくれた。天然酵母を使ったベーグルや有機発芽玄米のパンなどを販売し、トマトやナス、ピーマンなどの有機栽培で育てた野菜が人気のランチを提供している。

 2人は高校卒業まで島で暮らし、その後、約30年間、進学や就職で神戸や大阪、東京で生活してきたが、やがて瀬戸内の穏やかな海や澄んだ空気が恋しくなったという。「島にはゆったりとした特別な時間が流れている。リラックスしに来ませんか」と環さん。勧められるまま、一口ベーグルを頬張った。日だまりのような、優しい味がした。

良さ 年齢重ねて分かる

<さざなみのおと>

 頭島を散策すると、カキの養殖の際、いかだにつるして稚貝の苗床に使うホタテ貝の殻が頻繁に目に留まった。その大量のホタテ貝を前に、今では大好物のカキが子どもの頃は苦手だったことをふと思い出した。

 物の良さは、一定の年齢を重ねないと分からないものかもしれない。取材の終わり、今川環さんも「若いときは都会は魅力的だったけど、年齢を重ねるごとに、島の豊かさに気付いた」と口にした。

 頭島には若者を引きつけるような大規模な観光スポットは確かにない。しかし、穏やかな海に浮かぶカキいかだや時間に縛られず釣り糸を垂らす人々など、代えがたいものがある。カキの味と同じで、これを知らずに生きていくのは、あまりにも惜しい。(今回の旅人・藤沢一紀・40歳)

人口最も多く

<MEMO>

 頭島は面積0.6平方キロで、386人(5月末現在)が暮らす。日生諸島で最も人口が多く、高齢化率は46.1%。江戸時代に同諸島最南部の大多府島が風待ち港となったのをきっかけに、入植が進んだ。観光の問い合わせは、備前市産業観光課(0869・64・1832)。

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2175383 0 島旅おかやま 2021/07/03 05:00:00 2021/07/02 23:51:48 2021/07/02 23:51:48 漁船がつながれた頭島漁港(備前市日生町で)=藤沢一紀撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210702-OYTAI50018-T.jpg?type=thumbnail

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