<変わる岡山 NEO PERSONS1>殻破り 新境地へ
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eスポーツ広がる世界
◆人気ゲーマー×カキ漁師 小笠原修さん
新型コロナウイルスで日常が一変した1年が終わり、新たな年が始まった。当面は進むべき方向が見えにくい、変化と向き合う日々が続くが、目をこらすと岡山には道しるべになり得る人々がいることに気づく。新しい価値観で、強くしなやかに生きる姿を、連載で紹介する。

寒風が吹く12月の浅口市寄島町の漁港で、カキ漁師の小笠原修さん(31)は「この時期が、一番忙しい」と笑った。潮風と肉体労働で鍛えられた、いかにも漁師という
カキ漁師一家の長男として生まれた。高校卒業後に結婚し、家族を養うために家業を継いだ。出荷のピークの秋から春は休みなく働き、夏場は昼から仲間と酒を酌み交わす。そんな毎日だったが、それでよいと思っていた。2015年、小学校に入学した長男の同学年が、20人と聞くまでは。
「自分の頃は、80人はいたのに……」
過疎化を見て見ぬふりをしていた。大半の同級生はまちを出て就職し、なじみの店は閉店。世界から取り残された気がして、ふさぎ込んだ。
その頃、オンラインゲーム「
16年5月、プレー動画の実況配信を始めた。岡山弁交じりの軽妙なトークが人気となり、一般人としては異例の100人以上の視聴者が集まった。
しかし、シーズン中は、配信はできない。最後の記念に16年秋、カキを参加賞にオンライン大会を開いた。20人程度と高をくくっていたら、200人以上が参戦。賞品代がかさみ、家族から大目玉を食らった。
数日後、思わぬ手紙が届いた。大会参加者の母親からで、「ゲームばかりする子どもを叱っていましたが、『ゲームでもらえた』とうれしそうに話してくれました。とてもおいしいカキで、食卓がいつもより明るく感じました」とつづられていた。
泣きながら手紙を読み終えた時、初めて漁師の仕事に向き合えた気がした。漁師とゲーム、歯車がかみ合った。
大会後、ゲーム関連のイベントを開催する会社を設立、自治体からまちおこし事業などの依頼も来るようになった。新型コロナウイルスの影響で中止になるイベントもあったが、オンラインゲーム大会は盛況で、売り上げを確保した。昨年7月、中四国在住のゲーマーを中心に「せとうちENLIFE」を旗揚げし、代表に就任。現在は19~33歳の男女16人が高額賞金の大会出場を目指し、腕を磨いている。
1回きりの記念のはずだった大会も、10回以上開催。ゲームで出会った牧場主や農家から提供される牛肉や果物などが景品に加わり、最近は「1次産業ゲーマー」と呼ばれる。活動を知る人から、カキの注文が舞い込む好循環も生まれた。実はどこからでも、世界への窓は開いていた。「ここが自分の居場所だ」。今は胸を張って言える。(上万俊弥)
◇パズル、格闘… コロナ禍でも人気
コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」のジャンルは、パズルや格闘、レースなど多岐にわたる。動画配信サイトで気軽に観戦できることから、コロナ禍でも人気を集めている。
スポンサーの参入も相次ぎ、オランダの調査会社「Newzoo」は、2019年に9億5750万ドル(約990億円)の世界市場が、23年には15億9820万ドル(約1650億円)になると試算。国内市場も拡大しており、ゲーム関連事業を展開する「KADOKAWA Game Linkage」は、23年に150億円を超えると予測している。