<変わる岡山 NEO PERSONS 5>人材育成 次につなぐ
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足袋パンプス開発チーム 川崎みのりさん、千田瞳さん

地下足袋や安全靴を主力にする1919年創業の老舗ゴム履物製造「丸五」(倉敷市茶屋町)で、異例のプロジェクトが進行している。今春の本格発売を目指す女性用の「足袋パンプス」。長時間履いても疲れず、ファッショナブルに仕上げるべく、女性社員を中心にした開発チームが奮闘する。
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カタカタとミシン針が上下動を繰り返し、カラフルな足袋を縫い上げる様子を、プロジェクトの仕掛け人で、開発チームのリーダーの川崎みのりさん(43)が見つめていた。
浅口市出身で、高知大で美術を専攻。デザインとは無関係な仕事をしていたが、2005年、「ものづくりに携わりたい」と、従業員約150人の丸五に転じた。
趣味のよさこいで「祭り足袋」を履き、フィット感は熟知していた。ただ、ぬれた石畳でゴム底が滑った。地下足袋の商品企画の担当に配属されると、「耐滑性」を高めるため、歩く人やダンサーの足元を見つめ続けた。
ある時、「油でぬめる厨房の床で、料理人が履くゴム靴の底を、足袋に転用すればいい」と思いつき商品化。人力車の車夫や舞台俳優から支持されてヒット商品になった。
結婚・出産を経て約5年前に職場に復帰し、新設されたオンラインショップの部門に配属され、顧客と直接やりとりする機会が増えた。そこには、約10年前に同社が開発した足袋シューズのファンからこんな声が届いていた。
「フォーマルな場面や出張で履いても足が痛くならない、オシャレな足袋シューズがほしい」
パンプスタイプの国産足袋は市場に見当たらない。顧客の声を集め起案書を練り、上役を説得した。設計チームとデザイナーを巻き込み、19年春から試作を重ねた。
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デザインを担当したのが、昨春に正社員に採用された千田瞳さん(31)だ。倉敷市の瀬戸内海そばで、大工仕事に打ち込む父の背を見て育った。幼い頃から絵を描くのが好きで、工業高校でデザインを学んだ。
「おしゃれの基本は我慢から」と、長い間、外反
「何とか両立できないか」と考え続けており、足袋パンプスは、まさにやりたい仕事と一致していた。地面を足裏でつかむ感覚と、ゆったり履ける機能を備えつつ、見た目はかわいい。つま先の詰め物の形、靴底の形。細部まで突き詰め何度もデザインを描き、設計チームに見せ、またやり直した。
指先の先端のしわをなくす工程は難しく、試作時には工場の女性職人たちが、縫製の方法に工夫を重ねてくれた。20以上の試作を重ね、昨秋、ついに商品が完成。ゴールドやブラウンなど全6色。昨年10月からのテスト販売では、約300足を完売。春からオンラインも含め、年間5000足を目指す。
デザインを巡ってチーム内で意見をぶつけ合うことも多かったが、2人はこう思っている。「形にできたことが、自信になった。街で履いている人を見ると、声をかけたくなるかも」
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「7割は定番に力を注ぎ、3割はチャレンジして新たな価値を探す」。同社のモットーだ。足袋パンプスが実際に流行するかは未知数だが、開発を通し、社員の技術は大きく向上し、仮にヒットに至らなくても、<次>につながる人材は育成できた。老舗企業は、したたかだ。(岡信雄)
21年に100周年 県内63社
民間信用調査会社の帝国データバンクによると、2021年に100周年を迎える企業は全国で2943社。中国地方には231社あり、県別に見ると広島77社、岡山63社、山口40社、島根27社、鳥取24社となる。割合は製造業が約25%、小売業が約23%、卸売業が約21%と続く。
倉敷市は100年以上事業を続ける老舗の地元企業をたたえる「倉敷の老舗」を認定し、感謝状を贈る制度を2012年度から開始。20年度までに約130社が表彰されている。