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岡山大法学部 原田和往教授に聞く(上)


今月6日に無期懲役の判決が言い渡された津山市小3女児殺害事件は逮捕から初公判まで3年を要したほか、検察側が取り調べ映像の文字起こしを朗読するなど、異例の展開を遂げた。逮捕直後から事件に注目してきた岡山大法学部の原田和往教授(刑事訴訟法)が公判を振り返り、浮かび上がった課題を分析した。2回にわたり、紹介する。
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――起訴から初公判まで3年、公判は90日間以上に及んだ。
「裁判員裁判の公判前整理手続きや公判は長期化傾向にあるが、理由はそれぞれで、個別の事件について長すぎるとは言えない。コロナ禍の影響もあっただろう」
――捜査段階の「自白」の信用性が争点になった。
「公判での被告の供述が捜査段階と異なっており、なぜ、どのように変わったかを検討するため、法廷以外の場で行われた供述を調べる必要があった。争点や証拠を適切に絞り込み、審理も計画的だった」
――指紋やDNAなど、物証がない事件だった。
「犯人の特定につながる証拠はなかったが、被告の自白が、遺体の状況といった客観的事実と整合するかを判断することはでき、『自白偏重』とは言えない」
――判決では、自白と傷などの客観的事実が整合していることから信用性が認定された。
「自ら体験したからできた供述なのか、想像や外部の情報からでもできた供述なのかを対比して判断を示した分かりやすい判決だった。たとえば、刺した回数は偶然に一致することがあり得るが、判決では左手で1回、右手で3回という振り分けが遺体の傷の状況と偶然一致することは考えがたいとしている。慎重で合理的な判断だ」
――被告は「あおむけの女児を刺した」と供述していたが、女児はうつぶせで発見されており、弁護側は作り話だと主張したが、判決では退けられた。
「勘違いや間違った説明をすることはあり得る以上、実際に体験していてもしていなくても、語ることができる供述だ。一方で、殺害の状況という核心部分に比べるといわば『枝葉』の部分で、矛盾しているからといって信用性判断とは関係がない。弁護側は『体験しているなら全て正確に語れるはず』という前提にこだわりすぎている」(聞き手・上万俊弥)
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津山市小3女児殺害事件 2004年9月、津山市の民家で女児(当時9歳)が殺害された。18年5月、県警が殺人容疑で勝田州彦(くにひこ)被告(43)を逮捕。被告は捜査段階で首を絞め、刃物で胸などを複数回刺し殺害したと供述したが、のち否認に転じた。21年10月に地裁で始まった裁判員裁判でも無罪を主張。物証は乏しく、検察側は取り調べ映像を文字起こしした「反訳書」を朗読した。地裁は求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。