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岡山大法学部 原田和往教授に聞く(下)
津山市小3女児殺害事件は物証に乏しく、検察側は取り調べ映像を文字に起こして法廷で読み上げるなど、異例の立証を試みた。公判を傍聴するなどしてきた岡山大法学部の原田和往教授(刑事訴訟法)がその背景を分析した。
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――検察側は、文字起こしした「反訳書」を作成し、朗読した。取調官が被疑者の供述を要約した「供述調書」は、本人の署名・押印がなければ証拠採用できない。反訳書は法的に問題ないのか。
「供述調書は捜査機関が作成するもの。署名・押印はその内容に被疑者が誤りがないことを了承するため行われる。取り調べ映像の文字起こしは内容が正確なのは明らかなので、署名・押印がなくても問題ない。ただ、これまで法曹界では理論的に可能とされていたが、実例は聞いたことがなかった」
――全国の地裁は映像使用に慎重な姿勢だ。裁判員に与える印象が強く、直感的な判断に陥ることへの危惧があるとされる。
「仮に被疑者が涙を流して供述している映像があるとして、『泣くほどだから、本当のことを言っているに違いない』といった判断をする人もいれば、そう思わない人もいる。感覚は人それぞれ。議論が平行線になり結論を導き出すのに有用ではないので、裁判所は避けている」
――今回の裁判でも同じ理由か。
「今回は危惧ではなく、『証拠の厳選』という理由で、反訳書を採用したとみられる。裁判員裁判では審理の長期化を防ぐため、必要な証拠を事前に厳選し、不要なものを排除する。今回の事件で大切なのは供述の内容で、その時の表情や態度などの視覚情報は必要ないと判断したのでは」
「判決では自白の信用性について『特に慎重に検討』とし、直感的なものを連想させる『迫真的』という言葉は一切なかった。供述の合理性や、事実との整合性といった客観的な基準に従って判断したことを強調している。映像による直感的な判断に陥る危険性を避けるという消極的な理由ではなく、供述内容だけを見られる反訳書の方がより良いという積極的な理由だと考えられる」
――今後の刑事裁判に与える影響は。
「一般人が取り調べで完全黙秘することは案外難しい。弁護士が『話してもいいけど調書に署名・押印はしないように』とアドバイスすることがあるが、録画されている場合にその戦略は通用しなくなる。一方、裁判員は反訳書の方が後の評議で見返しやすいというメリットがある。今回の手法が『岡山モデル』として定着する可能性はある」
(聞き手・上万俊弥)