地域住民の鉄道 議論を

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交通<下>

 発言の瞬間、場の空気は一変した。5月11日に新見市で開かれたJR芸備線のあり方を話し合う検討会の終盤、JR西日本岡山支社の須々木淳・副支社長が「鉄道が地域のお役に立てていない。前提条件を置かず、将来の地域公共交通の姿について議論を開始したい」と切り出した。存廃も含めた協議の申し入れに、自治体側は反発。議論の着地点は見えていない。

「6年前より重みある責任」
林野駅で試合のチケットを受け取る岡山湯郷ベルのサポーター(右)。一時的だが、駅はにぎわった(美作市で)
林野駅で試合のチケットを受け取る岡山湯郷ベルのサポーター(右)。一時的だが、駅はにぎわった(美作市で)
「前提を置かない議論を始めたい」と切り出した須々木副支社長(5月、新見市で)
「前提を置かない議論を始めたい」と切り出した須々木副支社長(5月、新見市で)

 JR西は4月、1キロあたりの1日の平均利用客数(輸送密度)が2000人未満の区間を公表した。芸備線の備中神代(新見市)と東城(広島県庄原市)間は、2019年度の1日の平均利用客は81人で、17~19年度の収支は2億円の赤字。100円の収入を得るのに必要な費用「営業係数」は4129円で、窮状が可視化された。

 収支の悪い路線は芸備線だけではなく、県内では他に姫新線の津山(津山市)と中国勝山(真庭市)間や、因美線の東津山(津山市)と智頭(鳥取県智頭町)間など、2路線4区間も公表対象となった。

 JR西側は「沿線自治体にも状況を説明し、地域交通のあり方の議論を始めたい」とする。しかし、真庭市の担当者は「赤字路線の一部を切り取って存廃の議論を進めるのは適切ではない」と語る。

       ◇

 目的があれば利用される可能性を、鉄道は秘めている。6月18日午前、姫新線の林野駅(美作市)はにぎわいをみせていた。この日は、美作市で女子サッカー・なでしこリーグ2部の岡山湯郷ベルの試合があり、市がJRを利用して訪れた人に観戦チケットをプレゼントするキャンペーンを実施。サポーターが、県内外から鉄道を利用して駆けつけた。

 倉敷市の小学校教諭の男性(31)はいつもは車で約2時間かけてスタジアムまで行くが、この日は鉄道を乗り継いでやって来た。普段より時間は余計にかかったが「車内がきれいで、窓が大きくて景色も見やすい。ゆっくり移動するのも悪くないと思った」と語った。

 同支社が21年10~12月に芸備線の乗客に行ったインタビュー調査では、観光を目的とした利用が最も多かった。特に週末はその傾向が強く、土日祝日は6割以上に達した。ただ、平日の通勤・通学の利用は約3割と伸び悩む。同支社は「日常の利用に結びつけられていない。地域の住民に利用してもらうことが重要だ」との立場だ。

       ◇

 鉄道が廃止になった場合、代替交通手段の一つとされるのがバスだが、簡単に置き換えられないとの指摘もある。

 07年からコミュニティバスを運行する真庭市。複数の事業者に委託し、28のルートで走らせている。高校や駅を経由するなど利用客が多い時間帯もあるが、21年度決算では、約1億5000万円の支出に対し、運賃収入は約1900万円にとどまる。国から約1700万円の補助を受けるが、1億円以上の赤字は市が 補填ほてん し、路線を維持しているのが現状だ。

 運転手不足もつきまとう。同市にはJRを利用して市内の中学・高校に通う生徒が約320人おり、もし姫新線が廃線となりバスで代替輸送すると、朝のピーク時は定員60人のバス6台が同時に必要になる。市の担当者は「同じタイミングでそれほどの運転士や車両を用意するのはかなり困難。鉄道が廃線になれば、通学の手段がなくなる」と訴える。

       ◇

 18年に廃線となった 三江線さんこう (広島県三次市―島根県江津市)など、地方の公共交通を研究する加藤博和・米子高専教授は「鉄道は地方自治体だけでは支えられない。国民の生活を保障し、地方のあり方を考えるという意味では国の問題だ」と指摘する。その上で、「鉄道を守ることが目的化してはいけない。住民や地域のための公共交通はどうあるべきかという意識で、議論するべきだ」と話している。(おわり。この連載は、松本慎平が担当しました)

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3120133 0 ニュース 2022/06/28 05:00:00 2022/06/28 05:00:00 2022/06/28 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/06/20220628-OYTNI50005-T.jpg?type=thumbnail

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