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    <15>旧ソ連の若者 猛火の悲劇

    ◆プリアムーリエ号 火災事故犠牲者追悼の碑(大阪市港区)

    • 大阪湾沿いにある「プリアムーリエ号火災事故犠牲者追悼の碑」。奥の岸壁で火災が起きた(大阪市港区で)
      大阪湾沿いにある「プリアムーリエ号火災事故犠牲者追悼の碑」。奥の岸壁で火災が起きた(大阪市港区で)

     大阪湾に白波が立つ。大阪市港区海岸通の中央突堤。観光客らでにぎわう海遊館に近い岸壁に、石碑「プリアムーリエ号火災事故犠牲者追悼の碑」が、北風を受けながらたたずむ。

     プリアムーリエ号は、旧ソ連の大型客船(4870トン、全長122メートル)。1988年5月18日未明、中央突堤に停泊中、セカンドデッキから出火した。訪日ソ連青年観光団と乗組員計424人のうち女性教師やエンジニアなど計11人が死亡、35人が負傷した。

     〈船室を焼き尽くし、黒煙が数百メートルも噴き上がる猛火となった〉

     〈乗客は海に飛び込み、着のみ着のままタラップを駆け降りたが、猛煙に追われ、力尽きた乗客は船室で倒れた〉

     同日の読売新聞夕刊は、火災のすさまじさを、そう伝えている。

     大阪市消防局は消防車や消防艇など約50台を送り込んだ。消防士らは、放水で船がバランスを崩して沈没する危険を承知で、逃げ遅れた人を救出するため上船した。同局消防司令の山下伸也さん(46)は「船内はマンションのような構造になっており、1部屋ずつ確認した。天井から落ちてくる放水が熱湯のように感じた」と振り返る。

     鎮火まで約17時間を要し、計1500平方メートルを焼損した。同局が現場検証し、出火原因を調査したが、はっきりしなかった。

     事故から3年後の91年、1体のブロンズ像が遺族から日本に届いた。大理石の上に苦しそうな表情の女性の像が横たわっていた。「現場が見える場所で魂を慰めたい」。遺族からの要望があったが、岸壁はトンネル工事の資材置き場になっていた。市から頼まれ、近くの築港高野山釈迦院が一時的に預かることになった。

     同年5月の命日には遺族が来日し、境内で除幕式が行われた。住職の二上寛弘さん(68)は「事故の際に寺が遺体安置所になったこともあり、遺族から何度もお礼を言われた。犠牲者には20代の若者もいて、気の毒でした」と話す。

     ソ連はその7か月後に崩壊した。像はそのまま境内に置かれていたが、傷みが進んだ2011年、市が撤去。像のパネルを飾った石碑を新たに作り、現場を臨む現在地に建立した。ロシア政府を通じて遺族の許可をもらった。

     25年前、近くで銭湯を営んでいた福田頼隆さん(70)は、黒い煙が船窓から空高く上がるのを見た。今はボランティアで地域のガイドをしており、火災の記憶が薄れる中、観光客らを必ず石碑に案内する。

     「この港で起きた大惨事を忘れずにいたい。そのことが船の安全にもつながるはず」。11人の無念を思い、静かに手を合わせている。

    (井口 馨)

    ◆交通手段

     大阪市営地下鉄中央線大阪港駅から線路沿いに西へ進み、約500メートル。海遊館からは南へ約400メートル。

    ◆避難所に住民差し入れ

     日本ユーラシア協会 府連理事長榊正明さん 65

     前身の団体・日ソ協会の時代から、両国間の民間交流に尽くしてきた。「政治体制が違う国だからこそ、交流の橋渡し役になりたかった」

     冷戦時代、旧ソ連からの旅行者は、ウラジオストクなどから客船で大阪や神戸に来ることが多かった。船上での親睦パーティーによく招かれた。「お土産に日本のビールを持って行き、合気道や日本舞踊を披露すると、喜ばれた。日本に興味を持つ、素朴な人たちでした」

     火災前夜もプリアムーリエ号のサロンで、乗客と歓談した。「翌朝、火事があったと聞いて驚き、一人一人の安否が心配で、いてもたってもいられなかった」。ロシア語を理解できる学生らを集めたり、寄付金を取りまとめたりした。

     助かった乗客が身を寄せた避難所には、地元の人たちがタオルやせっけんを差し入れた。「緊急の時こそ人の真価が問われる。大阪の人の優しさが発揮された」

     1991年12月のソ連崩壊後も、旧ソ連各地から歌手を招くなどの交流を続ける。「長い歴史の中で培われた様々な音楽や文学など豊かな芸術があり、日本人にその魅力を伝えたい」

     さかき・まさあき 1947年大阪市生まれ。八尾市在住。大阪外大(現・大阪大外国語学部)でモンゴル語を学ぶ。製薬会社勤務を経て1983年に日ソ協会職員に。2011年から現職。

     この連載で取り上げる石碑を募集しています。連載へのご意見、ご感想もお寄せください。いずれも読売新聞大阪本社社会部(ファクス06・6361・3001、メールo‐naniwa@yomiuri.com)へ。次回は2月中旬に掲載します。

    2013年01月27日 01時49分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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