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    <17>東北の思い 悪者が英雄へ

    ◆伝阿弖流為(あてるい)・母禮(もれ)之塚(枚方市)

    • 「伝阿弖流為・母禮之塚」の言い伝えを説明する岡田さん。毎秋、石碑の前で2人の慰霊祭が行われる(枚方市の牧野公園で)
      「伝阿弖流為・母禮之塚」の言い伝えを説明する岡田さん。毎秋、石碑の前で2人の慰霊祭が行われる(枚方市の牧野公園で)
    • 首塚と伝えられてきた石塚
      首塚と伝えられてきた石塚

     桜の名所として知られる牧野公園(枚方市牧野阪)。その中央のヤマザクラとカシの大木の根元に、真新しい石碑「伝阿弖流為(あてるい)・母禮(もれ)之塚」が立つ。近くには、「首塚」と伝わる、碑名のない古い石塚もある。

     阿弖流為は、東北の民「蝦夷(えみし)」の将の名、母禮はその副将の名だ。平安時代の歴史書「日本紀略」によると、延暦21年(802年)、阿弖流為は、征夷大将軍坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の率いる朝廷軍と戦い、同族約500人を伴って降伏した。田村麻呂は、阿弖流為と母禮を連れて上京し、朝廷に助命を嘆願するが、聞き入れられず、2人は河内国で処刑された――。

     歴史は勝ち残った側が作るからだろう。田村麻呂は有名だが、阿弖流為と母禮はほとんど知られていない。牧野公園の周辺でも、石塚は長年、「悪者の首塚」と恐れられてきた。

     1970年に公園が整備される前、一帯は、近くの片埜(かたの)神社が管理する雑木林で、古い石塚が二つ並んでいた。やがて一つが消え、もう一つが現在地に移された。同神社宮司の岡田広幸さん(46)は小学生の頃、祖父から、「北方の首長の首塚」と教えられた。「神社に記録はなく、それ以上のことはわからなかった。誰かがたたりを恐れて、一つだけ残したのでしょう」

     一方、阿弖流為の故郷、岩手県奥州市(旧水沢市)では、民衆を守って命を落とした英雄の最期の地を探していた。歴史書の記述から河内国にあたる府東部を調べ、石塚を知った。有志らが二十数年前、枚方市を訪れ、その後慰霊碑の建立を要請した。

     驚いたのは、石塚周辺の住民らだった。牧野歴史懇話会長の笠井義弘さん(77)は「祖母から『あの場所に近づいてはいけない』と言われて育ったが、東北の人たちの思いを知り、何とかしなければならないと思った」と振り返る。同会が中心となって約800人から寄付を集め、2007年に石碑を完成させた。

     奥州市の「アテルイを顕彰する会」会長の及川洵さん(84)は「東北にとってかけがえのない場所を、枚方の人たちも大切にしてくれるのはありがたい」。時々、市民らでツアーを組んで訪れ、石塚に手を合わせる。

     石碑と石塚は現在、地元住民でつくる「伝 アテルイ・モレの塚保存会」のメンバーが清掃、管理する。同会会長の中野一雄さん(76)は「朝廷に抵抗した悪者という意味で、言い伝えが残ったのかもしれない。命をかけて人々を守ろうとした英雄の姿を、子どもたちに伝えたい」と話す。

     悪者から英雄へ――。1200年の時を経て、誇り高い雄姿が生き生きとよみがえった。(梶多恵子)

    ◆交通手段 京阪本線牧野駅から南東に約300メートル、徒歩約5分。片埜神社の北側に隣接する牧野公園内。

    ◆蝦夷守るため戦った

     作家 高橋克彦さん 65

     故郷・岩手の歴史を小説で描いてきた。阿弖流為を主人公にした小説「火怨(かえん)」を出版したのは、1999年。東北でも、阿弖流為は朝廷軍に対抗した「逆賊」とみなされ、タブー視されていた。しかし、各地に残る伝承や伝説を調べていくと、違う姿が浮かび上がった。「民を守ろうと戦った。東北人にとってはありがたい英雄だった」

     研究により蝦夷の歴史が解き明かされ、再評価され始めた時期でもあった。阿弖流為は勝った戦いでも、京都まで攻めに行くことはしなかった。あくまで朝廷の攻撃から民を守るために戦い続けた。「祖先の姿を知ることで、東北人としての誇りを持てるようになった。敗者の物語は歴史から抹消されるが、東北にも歴史はあった」

     枚方と蝦夷の関係もわかった。当時、枚方を治めていた百済王(くだらのこにきし)俊哲は朝廷の命を受けて、田村麻呂よりずっと前から蝦夷と戦い、負けてきた。阿弖流為が降伏したとき、すでに俊哲は亡く、「父の思いを引き継いだ息子に、朝廷が処刑を命じたのでは」と推測する。

     その枚方でも、英雄として顕彰されるようになった。「敗者と勝者の違いを超えて評価され、誰よりも阿弖流為が喜んでいるだろう。末永く見守ってほしい」

     たかはし・かつひこ 1947年岩手県生まれ。盛岡市在住。92年、「緋(あか)い記憶」で直木賞を受賞。「炎(ほむら)立つ」など著書多数。「火怨」は今年BSプレミアムで放映された時代劇の原作。

    ◆◆

     この連載で取り上げる石碑を募集しています。連載へのご意見、ご感想もお寄せください。いずれも読売新聞大阪本社社会部(ファクス06・6361・3001、メールo‐naniwa@yomiuri.com)へ。次回は3月中に掲載します。

    2013年03月05日 01時41分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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