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映画やドラマのロケーション撮影(ロケ)を誘致し、地域振興に生かす取り組みが広がっている。府内でも毎年数多くのロケが行われており、スクリーンの中になじみのある風景を見つけたり、そうした場所を訪れたりした人もいることだろう。ロケ誘致の仕組みやその経済効果、取り組みを進める人・団体について紹介する。(行田航)
ブランド化
昨秋公開されたハリウッド映画「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」。ロケ地となったのは、府内有数の繁華街・京橋だ。駅前の商店街を舞台に、主人公・スネークアイズ(ヘンリー・ゴールディング)がバイクで疾走したり、ビルから飛び降りたりする印象的なシーンの数々が撮影された。
「バイクのシーンは、この通りで撮影されました」
地元で街おこし団体の理事長を務める鷲見慎一さん(41)は上映開始に合わせ、ロケ地となったことをPRする動画を制作し、ユーチューブで公開。撮影の待ち時間に主演俳優が商店街の遊技場でビリヤードを楽しんだり、街のレトロな雰囲気を強調するため路面に水をまいてネオンを反射させたりといった“舞台裏”も紹介している。
また、専用サイトを開設し、商店街をVR(仮想現実)技術で再現。主人公さながらに、ビルから飛び降りる体験ができるようにした。
映画の公開とともに、ロケ地としての京橋の魅力も知られるようになり、映画・ドラマ撮影の協力依頼が次々と舞い込むように。商店街の店からも「路地裏の飲み屋がハリウッドデビューや」と好評で、鷲見さんは「ロケをきっかけに、地域のブランド力が上がっている」と手応えを話す。
橋渡し
こうした様々な効果を生むロケは、どのように行われるのか。重要な役割を担うのが、制作陣とロケ地とを“橋渡し”する「フィルムコミッション」だ。
今回の「京橋ロケ」に携わったのは、府や経済団体が2000年に設立し、約3000作品で支援にあたってきた「大阪フィルム・カウンシル(FC)」。きっかけは「作品のイメージに合う『昭和風情の残る街並み』を探してほしい」との制作サイドからの打診だった。この話を耳にした鷲見さんが、知人を通じて「ぜひ京橋で」とアピール。大阪FCが制作サイドに打ち返したところ、監督らの現地視察が実現したという。
大阪FCによると、こうしたロケ地選定のほかに、実際の撮影に向けては、▽宿泊施設や必要機材確保のための情報提供▽(公共施設を使用する場合)管理する自治体との調整▽エキストラの手配――といった支援を必要に応じて行っている。チーフコーディネーターの大野聡さん(41)は「何事も面白がる大阪の人や企業は撮影に協力的で、ロケ地としての府内の評価は結構高いんです」とする。
活気と消費
内閣府の調査によると、「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」の国内ロケで生じた宿泊・飲食といった直接的な経済効果は19億6600万円。関連産業などへの波及も含めると668億4200万円に上った。
地域を活性化させ、大きな消費も呼び込めるロケ。コロナ禍が収束に向かい、移動の制限や感染リスクを考慮する必要が少なくなれば、これまで以上に様々な地域でロケが行われる、との見方が広がっている。
「ロケ地」としての大阪の将来像をどう描くべきか。高橋一夫・近畿大教授(観光マーケティング)は「歴史やお笑い文化など制作側が興味を示しそうなコンテンツがそろう大阪には、誘致のアドバンテージがある」とした上で、「集客や地域活性化につなげるためには、訪れた人が、出演者と体験を共有できるような仕掛け作りが欠かせない。作品と地域とをどういったストーリー(物語性)で結ぶか、各ロケ地で知恵を絞っていく必要がある」と指摘する。
