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からくり人形の第一人者 東野進さん 71

からくり人形技師の東野進さん
からくり人形技師の東野進さん

 からくり人形の第一人者である寝屋川市の東野進さん(71)は昨年末、世界でも類を見ない「琴を実際に弾くからくり人形」の制作に成功しました。イタリア料理店経営者から転じてからくり人形師となり、近代日本の科学技術史料の収集、研究でも知られるなど、ユニークな経歴の持ち主です。約10年前に脳梗塞こうそくで右半身が不自由になりながら、人並み外れた独創性と器用さを武器に、創作意欲を燃やしてきました。

 父親は建具商を営み、十数人の職人を抱えていた。木工の技術は子どもの頃に職人から教わったんや。両利きで手先は器用やった。小学6年生で、平等院鳳凰堂と金閣寺を合わせた架空の建物をマッチ棒で作り始め、3年かけて完成させたこともあった。何かを作るのが好きで、飯を食うのも忘れて没頭したな。

 学校の勉強には興味がなく、中学卒業後は建具職人の見習いもしたが、料理が得意で21歳の頃、大東市でイタリア料理店を始めた。120人ほどが入る大きな店で女性客に人気でな。わしのスパゲティ、抜群にうまかったんやで。

 店の経営と同時に、中学生の頃に始めた骨董こっとう品の収集にも熱中した。その頃の骨董屋は伊万里や版画は大事にするが、幕末や明治など近代の史料はごみ扱いしていた。だけど、当時の物は博物館にもほとんどなく、「いずれ必ず価値が出るもんや」と確信していた。江戸時代のエレキテル、国内最古の自転車、明治初期の江戸城や大正期の正倉院の写真……。たくさんの史料を発見して、博物館などに収めたよ。

 からくり人形との出会いは26歳の頃。ずっと興味はあったが、なにせ現物がない。それが、京都・東寺の骨董市で「茶運び人形」を偶然見つけたんや。胸から上が欠けた不完全な状態だったが、構造を見ればいかに複雑な動きをするか分かる。「江戸時代のからくりはすごい」と思ったね。それから色んな人形を集めて、内部の構造を学んだ。

 30代でレストランを閉め、からくり人形と科学技術史料の研究に専念した。「からくり儀右衛門」と呼ばれた田中久重(東芝の創業者)が作ったとされる幻の人形「弓射り武者」や「文字書き人形」を制作するなど、これまでに約40体を作った。ほんまに良いからくりは、一生のうちにできて10体。それぐらい資料がなく、全部自分の頭で構造を考えなあかん。

 脳梗塞で倒れたのが2011年。医者に「よく助かったな」と言われた。でも、病気にならんかったら「琴弾き人形」なんて大変なもんは作らんかった。死ぬ前に集大成を作らなあかんと思って、取り組んだんや。

 人形に実際に琴を弾かせるのは、難しいなんてものじゃない。江戸時代にも存在しなかった人形なんやから。爪が弦に当たるだけでは音は出ない。「もう無理かも」と思ったこともあったが、息子に「『弦を弾く』動作を加えることが必要や」と助言されて、ようやく完成した。

 木工技術を見て育ったので、物の構造や技術が好きなんや。からくり人形は、電気もIC(集積回路)も使わず、ぜんまいという原始的な動力と仕掛けで、人間と同じような精巧な動きをする。それが面白い。

 現代のからくり人形師は、昔の人形をただ復元すればよいわけじゃない。見た人をあっと驚かすような、新しい出し物を作る気概がないといかん。新たなからくりを作る夢を持つことで、新しい技術が生まれるんやから。

 琴弾き人形で、俺は儀右衛門に挑戦したつもりや。8年がかりで完成したこの人形の琴の音を、より良く響かせるため、今も改良を続けている。いずれ海外に持って行き、世界中の人をびっくりさせたいね。(久場俊子)

 ◆1950年、大阪市城東区生まれ。江戸時代のからくりに関する卓越した技能を持つとして、2007年に厚生労働省の「現代の名工」に選ばれた。幕末に製作された日本最古級の国産カメラを発見するなど、近代の科学技術史料にも精通している。

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2030236 0 大阪ひと語り 2021/05/05 05:00:00 2021/05/05 05:00:00 2021/05/05 05:00:00 からくり人形技師の東野進さん https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210504-OYTAI50009-T.jpg?type=thumbnail

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