<戦後76年・下>「平和のため」惨劇伝え

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「大阪大空襲の体験を語る会」元代表 久保 三也子さん 92

 大阪の主婦らが活動の中心を担った市民団体「大阪大空襲の体験を語る会」は、2020年3月に半世紀にわたる活動を終えました。代表を務めた久保三也子さん(92)は、「生き残った者が伝えていかなくては」と、空襲の悲惨な光景や学徒動員の体験を学校などで語ってきました。高齢のためこれまでのような証言活動は難しくなりましたが、子どもたちの心に平和の願いは受け継がれていると信じています。

 1945年3月13日深夜からの「第1次大阪大空襲」は、鮮明に覚えています。無数の 焼夷しょうい 弾が「火の滝」のように大阪市中心部に落ちるのを、福島区の自宅近くから 呆然ぼうぜん と見ていました。今でも私は花火を見に行けません。あの時の光景を思い出すからです。

 高等女学校の生徒でしたが、その頃はもう学校には通わず、大正区にあった学徒動員先の工場で航空機の部品を作っていました。許可なく休むことなど許されず、朝になって工場まで焼け野原を歩きましたが、結局そこも焼けていました。

 帰り道、水槽の周りに黒焦げになった人がたくさん倒れ、防空 ごう の中でも多くの人が死んでいました。生きている人が誰もいない世界に、私一人だけが取り残されたようでした。魂が抜けたような心地だったのか、どうやって家まで戻ったのかは覚えていません。

 その後、爆弾を製造する枚方市の香里製造所に動員されました。当時まだ16歳。夜になると寮生活のさみしさから、隣の女の子が「一緒に寝よう」と布団に入ってきました。勤務は1日12時間。火薬のすごい臭いに最初は5分も耐えられませんでしたが、やがて全然臭わないようになりました。今も、失ってしまった嗅覚は戻らないままです。

 8月15日。玉音放送を聞いたのは、その工場です。

 誰かが「日本、負けたぞ!」と叫ぶと、「日本は最後の一兵まで戦う」と剣を振りかざす人も出てきて、大人たちは大騒ぎに。怖くなって寮に戻ると、「戦争が終わってんから、出ていってくれ」と退去を求められました。

 生徒の家族の多くは疎開していて、大阪に帰る場所もないのに先生はどれだけ待っても来ない。さんざん働かせて、戦争が終わったら私たちは放ったらかしでした。

 実家は6月1日の「第2次大阪大空襲」で全焼したものの、家族は無事でした。けれど私は、「自分の作った爆弾が、どこかで同じように街を焼いたかもしれない」とショックを受け、戦後2年ほどは何も手につかない状態でした。今考えるとうつ病だったのだと思います。

 そんなある日、学校で配られた新憲法の副読本を友人が家まで持って来てくれました。主権は国民にあり、国会議員らには憲法を守る義務がある、と書いてありました。国の言う通りにしないと「非国民」とされた時代とは違う。「日本がこんなふうに変わるんやったら、生きていける」。それが立ち直るきっかけになったのです。

 「大阪大空襲の体験を語る会」の設立は、1971年です。金野紀世子さんが「空襲体験を記録に残そう」と新聞投稿で呼びかけたことがきっかけでした。金野さんとは知り合いだったため、当初から会の活動を手伝い、99年に金野さんが脳 梗塞こうそく で倒れた後は、代表を引き継ぎました。

 会の発足の中心となったのは主婦たちです。空襲を伝える団体は全国各地にありますが、女性が担うのは珍しく、全国大会では「大阪のおばちゃんたち」と有名でした。

 会では、市民から募った体験記や体験画を発行したほか、小中学校や修学旅行で大阪に来た人に空襲の実態を話してきました。会員の高齢化が進み、会は2020年3月で解散しましたが、証言の回数は2000年からの20年間で約600回になります。思い出すのはつらく、我慢しようと思っても涙があふれることもありました。真剣に聞いてくれる子どもたちの姿に励まされて、続けてこられたのだと思います。

 「戦争がいかにむごいものかわかった」「今日のことを家族だけではなく、多くの人に伝えていきたい」。頂いたたくさんの感想文を最近また読んでいますが、頑張ってきたかいがあったと思えます。

 これまで体験を伝えてきた子どもたちは、平和の大切さをしっかりと受け止めてくれている――そう信じています。

(聞き手・久場俊子)

 ◆大阪市出身。大阪大空襲で多くの市民が犠牲になった光景や学徒動員先の軍需工場で過酷な労働に従事した体験を、子どもらに伝える活動を長く続けてきた。

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