市井の息づかい 小説に

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堺市在住の作家 蓮見恭子さん 55

 堺市在住の小説家、蓮見恭子さん(55)が、住吉大社(大阪市住吉区)の門前町を舞台に書いた人情物シリーズ「たこ焼きの岸本」(ハルキ文庫)が好評です。ミステリーの新人文学賞受賞を機に主婦から小説家に転身し、昨年は府内の書店員らが選ぶ「大阪ほんま本大賞」に輝きました。地域の人々の暮らしが感じられるような作品を発信してファンを広げています。

 執筆を始めたのは、長女が就学する前の2000年頃。子育てや家事、仕事から解放され、自分の時間を持ちたいと小説講座に通いました。1年でやめるつもりでしたが、 緻密ちみつ な取材を重ねていく講座の仲間の姿に刺激を受けました。何とか書けそうだと考えたのが、パズルを解くようなストーリーの展開に興味を持ったミステリー。手がかりや伏線の張り方の発想を学び、本格的に執筆に取り組みました。

 しかし、08、09年の推理長編の新人賞「鮎川哲也賞」は2年連続で最終選考で落選しました。「これであかんかったら、もう作家は無理」と思いながら、締め切り直前まで高熱を出しながら競馬のミステリー「女騎手」(角川文庫)を必死で書き上げ、新人文学賞の「横溝正史ミステリ大賞」に応募。10年に優秀賞を受賞し、小説家としてデビューすることができました。

 デビュー後は、出版社の提案で様々なジャンルに挑戦しました。ミステリーはプロット(筋立て)が中心ですが、高校駅伝を舞台にした「 たすき を、君に。」(光文社文庫)を書いたことを機に、人情味のあるドラマの楽しさを知りました。

 12作目となる「たこ焼きの岸本」は、どこにでもいる大阪のおばちゃんが主人公です。亡夫が残したたこ焼き店を舞台に、身近な事件を解決しながら人間として成長する主人公を描いています。40歳を過ぎて作家になりましたが、「人間はいくつになっても成長できる」との思いを込めました。

 この作品は、住吉大社周辺にある街の情景描写に力を入れた「まち歩き小説」でもあります。私自身、堺市で包丁鍛冶を営む家に生まれ、路地と古い屋敷に囲まれて育ちました。大好きな下町の空気感を楽しんでほしい。

 出版した20年に、府内の書店員や問屋が選ぶ「第8回大阪ほんま本大賞」に選ばれました。「大阪からベストセラーを出そう」と、各書店や問屋の従業員らが立場を超えて店頭販売やサイン会を企画し、モデルになった商店街の「まち歩きマップ」のしおりまで作ってくれました。

 しかし、緊急事態宣言中の今年5月に「たこ焼きの岸本」の続編を出した際、作家と読者をつなぐ街の本屋さんの休業が相次ぎました。「命綱」が絶たれたようなショックを受け、出版文化と書店の大切さを改めて考えさせられました。

 作家になって約10年。ミステリーなど様々な小説を書いてきましたが、今は関西に根ざした「ご当地小説」に落ち着きました。読者に愛される、身近で等身大のキャラクターを生み出すことを楽しく感じています。

 秋頃に出版が予定されるご当地小説も、実際に舞台となった神戸の街を友人と一緒に裏通りまで歩き回って書きました。そこに暮らす人々の息づかいまで感じてもらえたらと思います。(聞き手・上田貴夫)

 ◆堺市出身。大阪芸術大美術学科卒。印刷会社勤務を経て、2010年に作家デビュー。近著に「輝け! 浪華女子大駅伝部」(光文社文庫)、「バンチョ高校クイズ研」(集英社文庫)など。

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