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染色家 中島留彦さん 62

土から取れる天然顔料・酸化鉄による染色で、時代を経ても色あせないのがベンガラ染め。羽曳野市の染色家中島留彦さん(62)は、染めの色を増やして作品の幅を広げました。新作の「
地元の南河内にはかつて、ベンガラで塀や壁を塗装した赤茶色の家々が立ち並んでいました。木材の防腐、耐水性を高める効果があり、私も子どもの頃から、木造建物の柱などにベンガラ塗装を施す実家の仕事を手伝い、高校卒業後も迷わず家業に入りました。
すすで汚れた柱や
借金を重ねて食いつないでいた2001年、羽曳野市の誉田八幡宮で江戸時代のだんじりの飾り幕が見つかったと読売新聞の報道で知り、見学に行きました。縁起物の虎や鶴が描かれた300年前の河内木綿の幕でひときわ目を引いたのが、色あせていないベンガラの赤褐色でした。年月を経ても変わらない美しさを後世に残したい。そう考えたのが人生の転機でした。
「自然志向」で「オーガニックコットン」が注目され始めた頃。ベンガラで染めた綿の納入を紡績会社に飛び込みで営業すると、目新しい色で自然由来の染料ということもあり、受注に成功しました。
約10年前には染めの体験教室を始め、型染めなどの技法を本格的に学べるクラスを次々開設しました。全国から集まる生徒の中には、僕よりも染め方に詳しい人もいて、負けじと研究を重ねました。ベンガラに藍やススなどを調合したり、燃焼温度を変えたりして、赤系統だけでなく青系や緑系を含め25色出せるようになりました。
次に始めたのは、これらを活用したアート作品の制作です。5月の節句で使われる法被や
孫が生まれ、還暦からの挑戦として約2年かけて制作したのが長さ13・4メートル、最大幅4メートルの巨大鯉のぼり。昨年6月に工房近くの空きスペースで飾ると、最近は大きな鯉のぼりを出せない家も多いことから「もっと手軽で室内に入るものを」と要望が届きました。
そこで作ったのが「ベンガラ染めの置き型鯉のぼり」。体は黒や赤、茶、灰などで彩り、「龍になろうと天空に向かって滝を昇る鯉」のイメージで、勢いのある姿にしました。
台を含めて長さ70センチ、高さ50センチ、幅27センチ。針金の輪とベンガラで染めた布8枚の組み合わせで、折りたたむこともできます。中にランプを入れるなどインテリアにも向き、ネットで海外向けにも販売します。
ベンガラ染めは、素朴で優しい色合いが特長です。蛍光灯よりも
◆羽曳野市出身。家業を継いだ後、新たに1999年、ベンガラ製造と染色を行う会社「古色の美」を創業した。社内に設けた「ベンガラ染めスクール」の代表も務め、台湾にも教室を持つ。