都会の漂流者 受け止め

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油谷聖一郎さん(大阪市中央区で)
油谷聖一郎さん(大阪市中央区で)

 ミナミの新たな駆け込み寺づくりに奔走 油谷聖一郎さん 47

 ネオンきらめく大阪・ミナミの一角。バーやキャバクラなどの店を紹介する無料案内所が、行き場を失った若者たちの駆け込み寺になっていると聞き、訪ねてみた。迎えてくれたのは油谷聖一郎さん(47)。自称「ただのおっちゃん」だ。

 根がおせっかいなんでしょうね。目の前にお金もなくおなかをすかせた人がいてたら、何か食べさせてあげたくなるじゃないですか。

 きらびやかな歓楽街の あか りに吸い寄せられてくるのか、酔客に交じって、「家なし、金なし、携帯なし」といった人が、ふらりと案内所に流れ着いてくるんです。

 家の居心地が悪く、修学旅行で訪れたミナミを目指して横浜から自転車で来た20歳の男性。家出して万引きを繰り返していた10代の女の子――。

 年に40人くらいかな。虐待だったり借金だったり、いろんな事情を抱えて漂流してきた人たちに、まずは腹いっぱいご飯を食べさせ、2畳ほどの個室と布団を提供してきました。案内所の2、3階にある9部屋と共同シャワーだけの施設やけれど、路上で寝泊まりするよりは安全でしょ。

 100円ショップに一緒に行って歯ブラシやらタオルやら身の回りの品を買ってあげた後、「じゃあ、また明日」って別れるんです。光熱費は払ってもらうけど家賃はタダ。ここを拠点に仕事を探す子もおれば、翌朝、消えてしまう子も。意欲のある子には、時給1000円で案内所の業務を手伝ってもらい、再スタートを応援してきました。

 なんとか立ち直らせてやりたいとか、そんな気持ちは別にありません。でも、自分で立ち上がろうとしてる人の背中はそっと押してあげたくなるんです。

 懸命に働いて自立した子や、3年目に結婚相手を連れてきた子とかもおったけど、7、8割はいつの間にか行方をくらましました。警察につかまったり、少年院送りになったりというのも珍しくない。マイナスで流れ着いた子をゼロまでは手伝うけど、そこから先は本人次第ですから。

 生まれ育ったのは、道具屋筋にある看板屋。ミナミのど真ん中にあった大阪市立精華小学校(1995年に閉校)に通い、道頓堀とか千日前商店街で鬼ごっこなんかして遊んでましたね。

 高卒後、東京の専門学校に進んで、六本木の飲食店で働いてましたが、10年ほど前に妻と3人の娘とUターン。知人に頼まれ、経営難に陥っていた案内所を引き継いだのは2014年のことでした。

 当時、娘が通っていた市立日本橋中学校でPTA会長をしてましてね。愛着のある街からは住人が減り、違法なぼったくり店や風俗店もどんどん増えてて。一歩間違えれば、闇の世界から抜け出せなくなる危険と隣り合わせの繁華街を「大阪市青少年指導員」としてパトロールしてました。

 ど派手な看板のいかがわしげな無料案内所に、そんなおっちゃんがおるなんて、普通は思わへんですよね。なんでおせっかい焼くんかって? ちっちゃな人助け重ねてたら、回り回って自分に返ってくるような気がするからかな。きっと死ぬ時に答えが出るんちゃうかなと思てます。

 漂流してくる子らは、行政とか福祉ではカバーしきれない社会の隙間であえいでいることもずっと気にかかってました。そうした人たちの受け皿がもっと必要やと痛感し、昨年2月から案内所の仕事を離れ、新たな〈駆け込み寺〉づくりに取り組んでいます。

 安心して寝泊まりができて、再スタートを切るためのこまやかなサポートが受けられる。老若男女だれもが困った時に「助けて」と立ち寄ることのできる場所を、このミナミに。これまで培ってきたネットワークと仲間たちの力を結集すれば、実現できる日はそう遠くないと確信しています。(聞き手・渋谷聖都子)

 ◆1974年大阪市生まれ。大学生や市民向けにミナミの夜の現状などを語る講師も務める。2012年4月から大阪市青少年指導員、19年10月から浪速区区政会議委員。日本橋地域活動協議会委員などを通じて地域のまちづくりに参画している。

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