<4>プレー 全ての人の希望に
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ラグビー・NTTドコモに入団 マカゾレ・マピンピさん 30

南ア代表 日本でも活躍誓う
天然芝が広がる大阪市住之江区のグラウンド。昨年12月、ラグビートップリーグ・NTTドコモ(大阪市)の選手たちが実戦練習に汗を流していた。
その中で俊敏な動きを見せる選手がいた。ウィングのマカゾレ・マピンピ(30)。ボールを受け取り、横に鋭いステップを踏んだ。次の瞬間、相手との間合いがずれ、鮮やかな身のこなしで前進した。
「とにかく速い」。他の選手は口をそろえる。昨年10月に合流したばかりだが、存在は日に日に大きくなっている。「ファンの前で早く活躍する姿を見せたい」。16日のリーグ開幕を前にマピンピは意気込んだ。
1メートル81、90キロの体格。圧倒的なスピードでトライを量産する南アフリカ代表だ。2019年のワールドカップ(W杯)日本大会で通算6トライの活躍で母国を3度目の優勝に導いた。
誰もが認める世界トップクラスの選手。だが、ここまでの道のりは険しかった。
アパルトヘイト(人種隔離政策)が続いていた1990年に生まれ、南アの東ケープ州にある旧黒人居住区の貧しい農村地帯で育った。中学生の頃は学校まで片道10キロの道を通った。
物心ついた時には離婚した父親はおらず、母と
アパルトヘイト撤廃後の95年、代表が初出場のW杯で優勝した南アでは、ラグビーは<希望の象徴>だった。マピンピにとっても心の支えであり、生きるための手段でもあった。
しかし、他のエリート選手とは違い、高校は無名校。大会で見た有名校との環境の差に
高校卒業後、地元のクラブチームから誘いがあり、プレーする機会に恵まれ、2014年には国内選手権を戦うチームから声がかかった。
頭角を現し、プロ契約を勝ち取ると、南半球最高峰リーグ・スーパーラグビーのチームに入団。18年には南ア代表に上り詰めた。
19年のW杯優勝。その快足で、世界一の景色を見た。
国中の歓迎を受けながら帰国し、新たな気持ちでシーズンに入った時、新型コロナウイルスが世界を襲った。
南アでも感染者数は100万人を超え、死者も約3万人に上る。試合は中断、練習も一時できなくなった。「常に国民に貢献したいとやってきたが、何もできなくなった」。先が見えず、プレーできない苦悩が募った。
そんな中、転機が訪れた。日本からのオファーだった。海外でのプレー希望はあったが、他の選手に「日本は人も文化もすばらしい」と聞いていたことに加え、コロナで試合が打ち切られていたことも背中を押した。「コロナが海外行きを早めてくれた」。迷いはなく、前に進んだ。
経済や政治、貧富の格差――。南アでは今も様々な問題が山積し、かつての自分と同じように苦しむ人がいる。だからこそ「国のため、そして人種も関係なく全ての人のための希望になりたい」と走り続けてきた。
16日の東大阪市花園ラグビー場での初戦では、観客数は大幅に制限される。コロナ禍は選手も市民も関係なく、世界中の人の生活に影を落とし、苦境に立たされる人も多い。それでも、自分が歩んできた道から確信している。
「目の前のことに集中して取り組み、自分を信じれば、どんなことも成し遂げられる」
このメッセージを伝えるため、花園のグラウンドに立つつもりだ。(南恭士、敬称略)
16日 TL開幕
19年のW杯日本大会で日本代表が8強入りを果たし、脚光を浴びたラグビー。
コロナ禍で社会人チームのトップリーグは昨年2月23日を最後に、試合がなくなった。大学は昨春の公式戦ができず、高校も毎年春に開催の全国選抜大会などが昨年は中止となった。
選手同士が体をぶつけ合う性質上、密集や密接は不可避だ。日本協会は人数や練習内容でレベルを設定する指針を策定するなどして対策を進めた。トップリーグは今月16日に開幕。全国大学選手権では出場を辞退した大学も出る中、対策を講じながら試合を行う予定。