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<5>砂絵の感動 もう一度

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「また必ずステージに立ってアートを見せたい」と誓う紫苑さん(河内長野市で)=長沖真未撮影
「また必ずステージに立ってアートを見せたい」と誓う紫苑さん(河内長野市で)=長沖真未撮影
紫苑さんが描いた作品
紫苑さんが描いた作品

サンドアーティスト 紫苑さん 28

ライブ再開待ち表現磨く

 砂に指で絵を描いていくと、表情豊かな少女の顔が命を吹き込まれたかのように次々と浮かび上がる。

 紫苑しおん(28)は昨年12月、河内長野市の自宅でサンドアートの練習に打ち込んでいた。時折、あの熱気と興奮を思い出す。人気デュオ「コブクロ」とのライブ共演。2019年に4万人の前でパフォーマンスを披露した。

 しかし、コロナ禍で仕事はなくなった。「早くステージに戻りたい」。不安や焦りを振り払うようにひたすら砂に絵を描く。

 ガラス板にまかれた砂に指や手のひら、爪で絵を描くサンドアート。板の下からの光で輪郭が浮かび、砂の厚みで陰影が表現される。ライブパフォーマンスは1990年代にハンガリー人が始めたとされる。

 紫苑は「夢中になれること」を追い求めてきた。このアートに出会うまでは、歌手になることが夢だった。

 幼い頃からアイドル歌手にあこがれ、歌の教室に通った。高校生の時にはロックバンド「UVERworld(ウーバーワールド)」に熱中した。「自分もステージに立ちたい」と、22歳だった2014年、心配する母の反対を押し切って上京した。

 その年の夏、「ウーバー」のライブに行った時だった。歌に合わせてスクリーンに砂の絵が映し出された。男女が出会い、仲むつまじく年老いていく物語。細かい表情まで瞬時に表現するアートに心を奪われた。東京のグループ「SILT」のパフォーマンスと知り、代表の船本恵太のツイッターをフォローした。

 続けていた音楽は、ついに東京の事務所のオーディションに合格。18年春に念願だったポップス系歌手としてプロデビューした。しかし、他のアーティストを間近に見て「自分にはそこまでの覚悟はない」と思った。活動をやめ、「夢中になれること」を探した。

 「一緒にやらないか」。アルバイト生活を送っていた18年夏、ツイッターにメッセージが届いた。船本からだった。幼い頃から絵が好きで、アニメのキャラクターなどを描いてきた。投稿も続け、ツイッターで絵を見て才能を感じた船本が声をかけた。

 あの時の感動を思い出し、すぐに快諾した。東京のスタジオに通い、砂を均等にまく手法や、素早く描画する技術など徹底的に基本をたたき込まれた。

 約2か月後、紫苑の名でデビュー。娘の将来を案じながら17年に53歳で病死した母親への思いを込め、「追慕」の花言葉から決めた。企業のイベントなどで出演を重ねた。

 19年3月、大きな仕事が舞い込んだ。コブクロの20周年全国ツアーの共演だった。初日の長野市での1曲目は代表曲「桜」。ステージ近くの別室で船本と組んで描いた絵は、巨大モニターに映し出された。

 2人が出会い、音楽を始め、桜の木のように花を咲かせる――。コブクロの軌跡を曲に合わせて次々と描いた。約3時間のライブ中、様々な曲の世界をイメージして表現。観客から大きな歓声と拍手がわき起こった。

 4か月間で約20公演に参加し、ファンからはSNSで「感動しました」と絶賛された。人の心を揺さぶり、好きな絵と音楽に携われる。「これで生きていく」。心に決めた。

 コロナ禍が襲った昨春以降、出演は一切なくなった。バイトを二つ掛け持ちして生活費を稼ぐ生活。「またステージに立てるのだろうか」と不安がよぎる。

 それでも今は画力と表現力を高めるチャンスと自分に言い聞かせる。パフォーマンスを録画し、短編映画のように編集した作品にも挑戦するつもりだ。

 母の遺影を飾った部屋で砂のキャンバスに向かい、「もっと感動してもらえる作品を披露する。見ていてね。私はあきらめない」と誓う。(吉田誠一、敬称略)

公演数7割減

 コロナ禍によるコンサートや演劇などの業界への影響も深刻だ。「ぴあ総研」は昨年1年間のチケットの販売合計額が、前年比で約8割減となる1306億円になると推計する。

 全国の興行主による一般社団法人「コンサートプロモーターズ協会」の調査では昨年1~6月、総公演数、総動員数ともに前年同期比で約7割減った。国は大規模イベントについて人数制限を一部緩和するなどの対応をとるが、同協会は「今年も楽観できる状況ではない。感染拡大防止を万全にしていく」としている。

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1749745 0 コロナの先に 2021 大阪 2021/01/06 05:00:00 2021/01/06 05:00:00 2021/01/06 05:00:00 サンドアートの練習に励む紫苑さん(11日、大阪府内で)=長沖真未撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210105-OYTAI50019-T.jpg?type=thumbnail

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