<6>外国人と共生 挑戦続く
完了しました
「YOLO JAPAN」社長 加地 太祐さん
仕事や催し 活躍の場提供

壁いっぱいに鮮やかなアートが描かれた個室。ビジネスマンらがテレワークにいそしんでいるのは、大阪市浪速区の外国人就労研修施設「YOLO BASE」内にあるホテルの客室だ。
「去年の今頃は、世界各地から来た観光客で満室状態だったんですが……」。静まりかえったフロアで話すのは、運営会社「YOLO JAPAN」の社長加地太祐(44)。
76室のうち10室のベッドを撤去し、テレワーク向けビジネスルームに改装したのは緊急事態宣言中の昨年5月。ホテルは予約客がゼロになった4月から休業中だが、「外国人と共生する社会の実現に向け、何とか知恵を絞り続けたい」と決意を新たにする。
生まれ育ったのは目と鼻の先の阿倍野区。サラリーマンだった2002年、たまたま通っていた英会話スクールが経営危機に陥り、オーナーが失踪。従業員に「助けてほしい」と懇願され、一生徒でありながら400万円の借金までして経営を引き継いだ。思いがけず足を踏み入れた世界で、英会話講師や日本で働く外国人との交流が広がった。
同時に見えてきたのは、人手不足を補ってくれている外国人を労働力としかみなさない日本社会のあり方。「不動産も借りにくければ、クレジットカードも作りにくい。アフター5や休日も含めて丸ごとサポートする仕組みが不可欠」と、16年春、外国人の生活を支援するサービスを始めた。
その拠点として、通天閣からも近く、訪日客が集まるJR新今宮駅北側にYOLO BASEをオープン。ホテルのほか、レストラン、イベントホールなどを備え、25か国出身のアルバイトを雇った。体験型防災フェスや日本語講座など外国人向けの企画を次々打ち出し、一昨年11月のお祭りイベントには約800人が来場した。
だが、新型コロナの感染拡大で、外国人求人サイトや英会話教室など、ほぼ全ての事業が中断を余儀なくされた。建物の家賃や維持費だけでも年間約1億円。社員28人の生活を考えると、夜も眠れない日々が続いた。
「見通しが立たない八方塞がりの状況。一方で、あの時の絶望感を思えば、何でもできると開き直っている自分がいました」
あの時とは、忘れもしない15年2月。夜道、自転車に乗っていて乗用車に激突、意識不明で5日間、生死の境をさまよった。顔面を68針縫う大ケガを負い、鼻の骨が折れた顔を鏡で見たときの絶望感は、心の奥深く刻み込まれている。
「1度、死んだも同然。生まれ変わった気で、世の中に必要とされる仕事をしたい」。強い思いが事業の立ち上げへ踏み切らせた。
ホテルの改装後、着手したのはフードデリバリー事業。職を失った外国人と人手不足の企業を結ぶアイデアが功を奏し、宅配、介護関連などの企業が採用した外国人にビジネスマナーや基礎的な会話を教える事業も軌道に乗り始めた。外国人に活躍の場を提供したいという加地の思いの原点が、実現しつつある。
海外留学の機会を失った中高生を対象に、外国人講師陣が2泊3日の英語漬けプログラムを展開する新企画「イングリッシュキャンプ」には近畿一円の7校から申し込みがあった。経営のスリム化もあり、会社の業績は昨年同期を上回る勢いだという。
「まさに『
訪日客99%以上減 4月から6か月連続
少子高齢化による人手不足で、国内の外国人労働者数は、約165万8000人(2019年10月現在)と届け出が義務化された07年以降最高だったが、コロナ禍で雇い止めなどが相次いでいる。訪日客も、19年は約3188万2000人と過去最高を記録。しかし、20年春からの入国制限で、4月からは6か月連続で前年比99%以上の減少となり、訪日客が