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<7>「おいしい」文化は廃れない

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食品サンプル専門店「デザインポケット」経営 倉橋 幸子さん 39

閉店・休業新商品で再起

たこ焼きや小倉トーストの食品サンプル工作キット。倉橋さんは「視覚的にグルメ旅行気分を味わってほしい」と笑う(大阪市中央区で)=宇那木健一撮影
たこ焼きや小倉トーストの食品サンプル工作キット。倉橋さんは「視覚的にグルメ旅行気分を味わってほしい」と笑う(大阪市中央区で)=宇那木健一撮影

 江戸前ずしにたこ焼き、愛知名物の小倉トースト――。「今はおうちで夢をふくらませ、コロナが落ち着いたらご当地グルメ巡りに行ってほしい」。倉橋幸子(39)は新開発した食品サンプルの工作キットにそんな思いを込める。

 訪日外国人に「アート作品」と絶賛される食品サンプル。大阪市中央区の千日前道具屋筋商店街に専門店を構え、多い年では1万5000人が制作を体験するなどブームに火を付けた。

 コロナ禍の今、商店街はうそのように静かだが、倉橋は「『おいしい』を形にした文化はすごい。転んでも、ただでは起き上がりませんよ」と前を見据える。

 食品サンプルとの出会いは、大阪に個人デザイン事務所を構えた2007年。結婚するために広島から移り住んでまだ2年目で、大阪の文化が何でも珍しかった。

 仕事で仕入れる機会があり、大阪市平野区の製造工場を訪ねて職人の作業を見学した。イチゴ一つとっても、赤のグラデーションから黄緑のヘタの部分まで、絶妙な配合で色を作っていく。型枠から抜いた樹脂の塊が、エアブラシと筆で「命」を吹き込まれていくようにみえた。「機械を全く使わず、手作りの極致。もはや、伝統工芸の世界でした」

 食品サンプルは大正から昭和時代、大阪で発祥して全国の百貨店の食堂などで広がったとされる。だが、印刷技術の発展で紙のメニューに押され、製造工場は年々姿を消しつつあった。

 3年後、平野区の工場も廃業すると聞かされ、思わずこう言った。「こんな技術を手放すなんてもったいない。私が売ってみせます」

 その時たまたま工場で作っていた「エビ天」をスーツケースいっぱいに詰め込んだ。携帯電話のストラップに加工して、デザインの仕事で縁があった道具屋筋商店街の店先に並べた。「何これ、めっちゃほしい」。通りかかった人が次々と足を止め、3時間で売り切れた。

 2011年、商店街に専門店をオープン。「ものづくりの楽しさに触れ、文化として興味を持ってほしい」と販売だけでなく工作の体験教室に力を入れた。インバウンドなどの団体ツアーに組み込まれると客が殺到し、あふれた人を入れる会場を急きょ手配することもあった。

 仕入れ先の工場を増やそうと全国を巡った14年、業界の現状が変わっていないことに気づいた。採算ギリギリの取引が慣習化し、岐阜県のある高齢経営者は「こんな仕事は子どもに到底継がせられん」と嘆いた。合成樹脂を扱う職人は、伝統工芸のような社会的地位もなく、倉橋は「このままでは10年で職人がいなくなる」と危機感を募らせた。

 翌年、業界団体「日本食品サンプル普及協会」を設立し、独立後の経営まで学べる職人養成スクールを開校。住宅を改装して、年1トンのサンプルを製造できる工場も開設した。東南アジアなど海外にも売り込み、「世界に誇る日本文化」としての発信に乗り出した。

 だが、新型コロナでは、出店したばかりの京都店を昨年2月に閉店。体験教室の予約6000人分が吹き飛び、感染拡大で2度の休業を余儀なくされた。

 休業中、再起のため開発したのが冒頭の工作キット。1時間で組み立てられ、キーホルダーやマグネットになる。数年がかりで47都道府県分のご当地グルメを展開する予定だ。コロナ禍で、家庭向けの商品の強さに気づき、もっと暮らしの中に入り込みたいと感じた。

 倉橋は改めて誓う。「食品サンプルには、食べ物を大切にする心、一目でおいしさを伝える力がある。大阪人の知恵、日本人らしさが詰まった大切な道具として、後世に残したい」(行田航、敬称略。おわり)

製造業8割 売り上げ減

 コロナ禍で、ものづくり業界を支える中小企業は深刻な打撃を受けた。大阪商工会議所が昨年12月に公表した調査結果では、製造業101社の82%が「売り上げが減る見込み」と回答した。

 政府は「ものづくり補助金」(特別枠)を創設し、画期的な商品開発や設備投資を支援した。ただ、商議所の担当者は「土産や化粧品、ホテル関連などインバウンド需要に支えられていた業種では、今後も厳しい状況が続く」とみている。

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1754842 0 コロナの先に 2021 大阪 2021/01/08 05:00:00 2021/01/08 05:00:00 2021/01/08 05:00:00 食品サンプル工作キットの販売を始めた倉橋幸子さん(4日午後2時23分、大阪市中央区で)=宇那木健一撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210107-OYTAI50018-T.jpg?type=thumbnail

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