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「私の義母もだまされました」「あきまへんで振り込んだら」――。実体験に基づくメッセージが添えられた絵手紙が、東成署1階に飾られ、訪れる人の足を止めている。手がけたのは、大阪市東成区の中河昭さん(65)。「一人でも被害者が減ってほしい」。作品を通じて特殊詐欺被害や交通事故防止を呼びかけている。(中西千尋)
東成区内のアトリエや老人ホームで、絵手紙の講師を務めている。昨年の定年退職まで、日本証券業協会で働いていた。
投資をうたった詐欺への警戒を呼びかける仕事をしていた2018年末、義母が特殊詐欺の被害に遭い、3600万円をだましとられていたことがわかった。「しっかりしていると思っていたので、まさかだまされるなんて思ってもみなかった」という。義父が残した貯蓄を全て奪われ、義母の暮らしにも余裕がなくなってしまった。家族に暗い影を落とす結果となり、悔しさが消えなかった。
その3か月後、区民センターの作品展で中河さんの作品を見た東成署交通課の森尾和幸警部補から、「交通安全を呼びかける作品を作ってもらえませんか」と声をかけられた。「地域の防犯に貢献できるなら」と快く引き受けた。
まず手がけたのは交通安全。車の間をすり抜けるように運転する自転車の事故が多発していたことから、「慌てるな 無理なすり抜け事故のもと」と厳しい一言を書いた。続けて「高齢者の自転車の事故が多発してます。ちょっと心に余裕を持ってください」と語りかける。印象に残りそうな文章を考え、丸みのある文字と交通標識や自転車のイラストで、柔らかいタッチで訴えるスタイル。厳しい現実もふんわりと受け止めてもらえるような、絵手紙の魅力を活用することにした。
義母が被害に遭った経験も踏まえ、特殊詐欺への注意を呼びかけるものも作った。義母がだまされたことに触れ、「すごく巧妙です。だまされへん そんなあなたが狙われる」。実感を込めた。
森尾警部補は「警察がポスターを作ると『上から目線』と受け取られがち。味のある絵手紙は目を引き、すんなり受け入れてもらえる」と喜ぶ。
防犯活動に協力して手がけた絵手紙は4作品になり、東成署から昨年12月、感謝状が贈られた。「被害者を減らすためなら、今後もいくらでも協力したい」。作品同様、柔らかい笑みを浮かべた。