響く「ドン」 仲間一つに
完了しました
「和太鼓とんとこ」創設者 堀川 文代さん 63

「ドン、カッ」。和太鼓の面を打つ太い音と、縁をたたく小気味いい音が響く。「ハッ!」というかけ声を合間に挟み、大津市のホールで障害のある人やその保護者約10人が、無心に練習に打ち込んでいた。
1995年に誕生した演奏サークル「和太鼓とんとこ」。その創設者として代表を20年間務め、後進に託した後も、相談役として活動を見守りながら、時には知的障害のある長男・達也さん(34)と一緒にバチを握っている。
太鼓との出会いは、創設の前年、自宅近くの公民館で開かれた栗東市の「和太鼓TAO」の演奏会だ。メンバーは障害のある人たち。それまで「障害児は一つのことに集中するのが難しい」と思い込んでいたが、全員が演奏に熱中する姿や、一体感のある響きに魅了された。
達也さんはそのとき、小学2年生。周囲の児童はサッカーやピアノなど好きな習い事を始めていた。「達也にも何かさせてやりたい。でも、ついていけるだろうか」。そんな悩みの解決策に、太鼓はうってつけに思えた。
「私たちもやってみようよ」。同じ演奏会を見に来ていた親子らに呼びかけ、とんとこの活動は始まった。サークル名は、メンバーに誘う時の「とんとんしてみない?」という呼びかけ文句が由来だ。
太鼓は、滋賀大付属養護学校(現・特別支援学校)などに協力を求め、借り受けた。だが、最初はバチの持ち方も分からない。当時、同校教諭だった河合弘之さん(66)を講師に招き、まずはメンバーに練習を楽しみにしてもらえるよう、毎回おやつを用意した。だが、心配は無用だった。「ドン」と一度音を鳴らせば、メンバーはその楽しさにすぐに夢中になってくれた。
活動に手応えを感じたのは、2000年秋に同校で開かれた福祉イベント「こだままつり」でのこと。河合さんが短く覚えやすいオリジナル曲を数曲作り、約1年間をかけて10分余りのパフォーマンスに仕上げた。
来場者が見守る中、グラウンドのステージで達也さんや他の親子と披露した。最後に全員の太鼓の音がぴたりとそろった時、「この子たちにも仲間と一つになれる居場所ができた」と感じ、胸が熱くなった。
まつりに毎秋参加するうち、次第に県内外から出演依頼が舞い込むようになり、名古屋市や京都府城陽市などの和太鼓イベントにも出演した。結成25周年を迎えた20年には記念の演奏会を企画していた。だが、コロナ禍で中止に。「今年こそ実現させたい」。サークル内での感染を防ぐため、2班に分かれて練習に励んでいる。
その一人で、小学1年から約8年間通い続けてきた中学2年佐藤
「太鼓をたたいている間、楽しく幸せな気持ちでいてくれることが一番。子どもにも保護者にとっても、仲間づくりの場であり続けたい」。コロナの収束を祈りながら、仲間たちへ優しいまなざしを向け続けている。(山根彩花)
◆ 奈良県十津川村出身。達也さんの誕生後、障害者支援の動きが盛んな滋賀に大阪から移住した。「和太鼓とんとこ」のメンバーは現在46人。「技をみがいて心をみがく。心をみがいて世の中をみがく」などをモットーに、毎週土曜に大津市内で練習している。小学1年以上の障害者やそのきょうだい、保護者が対象で、月会費は親子1組3000円。問い合わせは代表の宮脇千恵さん(077・521・3909)。