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不遇の皇子伝承追う

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宮司で郷土史研究に尽力する 中島 伸男さん86

 ろくろで回転させた材木からわんや盆を削り出す職人・木地師。鈴鹿山脈の山あいに位置する東近江市の小椋谷(蛭谷町、君ヶ畑町)は、その発祥の地とされてきた。平安時代に隠せいした皇子が村人に技術を教えたのが始まりと伝わるからだ。宮司を務めながら、10年以上にわたって皇子に関する伝承を県内外で渉猟。成果を「惟喬これたか親王伝説を旅する」と題した著作にまとめ、自費出版した。

記録したノートや写真を前に「研究したいテーマは尽きない」と話す中島さん(東近江市で)
記録したノートや写真を前に「研究したいテーマは尽きない」と話す中島さん(東近江市で)

 惟喬親王は、文徳天皇の第1皇子。だが、異母弟(清和天皇)との皇位継承争いに敗れ、若くして隠せいする。20代の頃から趣味の山登りで小椋谷に通ううち、「木地師の里」を示す標識にたびたび出くわし、その生涯と伝承に興味を抱くようになった。

 「高貴な生まれの人が、なぜ山深い里の人々と交わり、今の世まで語り継がれているのか」

 合併前の旧八日市市で市史編さん室長も務めた郷土史家。2008年、民芸団体の機関誌へ寄稿することになり、「これを機に調べてみよう」と初めは数回の連載をするつもりで本格的に伝承をたどり始める。「想像以上に深く広がりのある世界へ、すぐに引き込まれた」

中島さんの近著「惟喬親王伝説を旅する」
中島さんの近著「惟喬親王伝説を旅する」

 日野町には、村人から山みそを差し出された親王が「この味を子々孫々まで伝えるように」と絶賛した話が伝わっていた。甲賀市には、年末に落ち延びてきた親王から「かくまってほしい」と頼まれた村人が、正月の準備を差し置いて迎え入れ、以来、今に至るまで門松を立てずに済ましてきた地域があった。東近江市の愛知川流域にも、渡河を手伝った村人に、親王が水鳥にちなんで「雁瀬」の姓を与えたとの伝承があった。

 さらに、親王がろくろの技術を伝えたとの伝説は、県内にとどまらず三重や静岡、福井、石川など広範囲に存在していた。

 大阪や神奈川を含め、他の8府県の故地も訪ね歩き、計60人以上から話を聞いた。図書館で約90冊におよぶ参考資料を読みこみ、メモしたノートは十数冊になった。機関誌への連載は、今年2月までに64回にわたった。今回の著作は、その原稿などに大幅に加筆して編んだものだ。

 伝承の大半は、史実として確認しようのない話だ。「木地師の祖」としての崇拝が各地に残るのも、小椋谷の寺社が免状交付などを通じ、全国の木地師とつながっていた影響とみられている。

 だが、調査する過程で見えてきたものもある。どの伝承も、庶民とともに生きる姿が共通していた。

 「不遇の皇子が生きた姿に、市井の人々が豊かな想像力を働かせ、産業を育んだ恩人などとして慈しんだ。木地師らがその伝承を心のよりどころにしてきたからこそ、後の世の人々へ『真実』となって伝わったのだと思う」

 著書では、そんな思いをこう記した。

 〈伝説は、それぞれの地域特有の土壌や人々の願望の中に芽生え、歴史研究だけでは知ることのできない人間の心情を学ぶことができる。惟喬親王の真骨頂は、伝説の中にこそある〉

 戦前・戦中、東近江市内にあった旧軍の飛行場について、関係者約100人の証言をまとめた「陸軍八日市飛行場 戦後70年の証言」など、これまでにも数々の労作を著してきた。「ふつふつと湧く『知りたい』という探究心に従って、これからも古里の身近なテーマを掘り下げ、後世に残したい」。変わらぬ意欲を燃やしている。

(松山春香)

     ◇

 旧八日市市(現・東近江市)出身。公社職員を経て同市に入り、市教委次長、市民部長などを歴任。八日市郷土文化研究会長も務めた。1996年に地元の野々宮神社の宮司に就任。長年の郷土史研究を評価され、2015年度には東近江市の市政功労者として表彰された。「惟喬親王伝説を旅する」は382ページ、税別3500円。問い合わせはサンライズ出版(0749・22・0627)。

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1826367 0 人あり 2021/02/08 05:00:00 2021/02/08 05:00:00 記録したノートや写真を前に「研究したいテーマは尽きない」と話す中島さん(東近江市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210207-OYTAI50007-T.jpg?type=thumbnail

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