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認知症の人と家族の会 県支部相談役 小宮 俊昭さん 77

「古い物で記憶が活性化することがあるんです」と語る小宮さん。回想法を実践する場づくりを目指している(彦根市で)
「古い物で記憶が活性化することがあるんです」と語る小宮さん。回想法を実践する場づくりを目指している(彦根市で)
小宮さんが詠んだ句。色紙に添えた花のちぎり絵は、亡き母・津がさんの作だ
小宮さんが詠んだ句。色紙に添えた花のちぎり絵は、亡き母・津がさんの作だ

 最近、物置にしまい込んでいた昭和期のレコードやプラモデルを引っ張り出した。認知症の人が、なじみ深い品物や音楽にふれながら思い出を語り合い、脳の活性化につなげる心理療法「回想法」に役立てようと思ったからだ。定期的に療法を実践する場を設けようと、住まいのある彦根市で場所探しを続けている。

 高齢になった父母や妻らに寄り添う男性介護者の支援にあたってきた。昨秋、胃がんと診断され、3年務めた「認知症の人と家族の会」県支部の代表は今春に退いたが、自身も通算15年、3人の介護を続けた「ケアメン」。その経験と知識を頼り、今も相談の電話がひっきりなしに寄せられる。

 「あなたの体も大事。奥さんが施設に入れるよう手続きを進めてみては」。体調が許す限り応じているのは、追い詰められる男性介護者の心境が痛いほどわかるからだ。

 生命保険会社に勤めていた1999年、認知症の症状が出始めた義母を島根県から引き取った。翌年、会社が破綻して失業し、夜勤の仕事に転じた。福祉施設に勤めながら一緒に面倒を見ていた妻・美恵子さんは、2002年秋に体調を崩し、がんと判明。義母と妻、2人への本格的な介護が始まった。

 夕方、義母をショートステイに送り出して職場へ。勤務明けの翌朝、妻の洗濯物を入院先で受け取り、食事を介助。帰宅後は義母と自分の食事を作る日々。「職場、病院、自宅の三角ベースを回るだけの生活。つらかった」。2年間の闘病を経て、美恵子さんは04年、59歳で旅立った。

 その後、義母は高齢者施設に入り、家に独りでいると、喪失感が押し寄せてきた。06年、津市で暮らしていた認知症の母、津がさんを引き取ることを「男手だけでは無理」という周囲の反対を押し切って決心した。

 終戦直前、父が病気になり、一家で暮らしていた韓国から日本へ急きょ引き揚げた。3歳の兄と生後半年の自分、さらに弱り切った父を母が懸命に守ったことが胸に刻まれていた。父は帰国直後に亡くなり、女手一つで育ててくれた母だった。

 だが、在宅介護は想像以上の厳しさだった。夜中にトイレで2、3回起こされて眠れず、時に大声を出す母をどなりつけたこともある。救ってくれたのが、同じ悩みを持つ人のネットワークだ。

 「家族の会」の存在を人づてに知り、介護の方法や心構えを学ぶ研修会に通った。認知症について深く知るうち「叱っても無意味」と気付く。あるがままの母を受け入れようと努め「笑え、笑え」と自分に言い聞かせた。

 心境の変化が母に伝わったのか、津がさんは晩年、どんな料理にも「あ~、おいしい」と言い、枕を新調すると「 心地与三郎ここちよさぶろう や」と応えてくれた。笑いの絶えない、かけがえのない日々だった。

 14年、96歳で津がさんを 看取みと ると、心にぽっかり穴があいたように感じたが、その後は同じような境遇の男性介護者の支援に力を注いだ。日韓の介護者の交流会で、期せずして生まれ故郷のソウルに行く機会も得た。天皇皇后両陛下のご即位の際には、京都御所でのお茶会に招かれた。「人を助けていると思っていたけれど、実は介護をすることで自分が支えられていた」

 男性介護者は、これからも増えていく。「知は力。知っていれば対応できることもある。恐れず、遠慮せず、認知症や介護の制度を学んでほしい」。後進へエールを送っている。(西堂路綾子)

          ◇

 1944年、韓国ソウル生まれ。津市などで育ち、大学卒業後、74年に当時の仕事の関係で彦根市に移り、2男を育てた。2007年に「認知症の人と家族の会」県支部に入会し、18年4月~21年3月に代表。09年には「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の発足にかかわり、同年から野洲市内で、17年からは彦根市内でそれぞれ月1回、男性介護者の集いを開いて悩み相談に応じている。

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