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大津在住の作家 茜 灯里さん 51

「歴史の息づかいが感じられるのがいい」と滋賀への愛着を語る茜さん(大津市で)
「歴史の息づかいが感じられるのがいい」と滋賀への愛着を語る茜さん(大津市で)
日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した「馬疫」
日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した「馬疫」

 コロナ禍で2024年の夏季五輪がパリではなく、再び東京で開催されることとなった世界を舞台に、未曽有の馬インフルエンザが流行。感染した馬は凶暴化し、やがてウイルスは変異して種を超えて感染が広がっていく――。新型コロナウイルスが国内で本格的に流行する直前の2020年2~3月に執筆した小説「オリンピックに 駿馬しゅんめ狂騒くる う」(後に「馬疫」と改題)で、同年10月の第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した。20年の東京五輪の延期や新型コロナの感染拡大を予言するかのような内容が話題となった。

 「専門的な知識を生かして、私にしか書けない小説が書けた」。作品には、主人公の一ノ瀬駿美と同じ獣医師免許を持つ、元新聞記者の茜さんの多彩な経歴や広い興味の幅が生かされている。

 東京大学理学部を卒業後、子どもの頃から好きだった科学の記事を書きたいと、大手新聞社に就職した。事件や事故を追う日々の中で、時々機会を得たインタビュー取材が小説家を目指すきっかけとなった。

 相手に向き合い人となりを聞くうちに、「もしかしたらこんな人なのかも」「実はこんな苦労があるのかも」と、相手が言葉にできない感情や人生の背景を空想した。「記者は事実しか書けないが、小説なら自由に表現できるのでは」と思うようになった。

 しかし当時は、消防車のサイレンが鳴れば夜中でも火事現場に駆けつけ、早朝に警察署へ出向く日々。筆力や発想力は培われたが、多忙で小説を書き始められなかった。

 入社約3年後にフリーライターに転身し、好きだった宝石の鑑定鑑別機関で研究員としても勤務。その後大学院へ進学した。

 さらには東京大の講師などとして働く傍ら、息抜きではじめた馬術に熱中。獣医師免許を取得して、東京大の牧場や鹿児島大の動物病院にも勤めた。

 小説に手をつけられたのは、17年に立命館大びわこ・くさつキャンパス(BKC)の研究施設で研究職に就き、仕事に慣れてからだった。

 手がけた小説として2作目の「馬疫」は、主人公が感染源をたどるユニークな謎解きが物語の根幹となった。「科学はミステリー。謎を追う科学者は名探偵にもなれる」。様々な分野に精通した科学小説は話題を呼び、今では執筆依頼が後を絶たない。

 興味は湖国へも向いている。寺社や城跡が身近にあり、歴史の息づかいを感じられるからだ。

 「馬疫」に先立ち、19年冬に初めて書いた未発表の小説は、彦根藩・井伊家が登場する、滋賀が舞台の歴史小説だという。土地に愛着がわき、今では「いつか琵琶湖が登場するミステリーを」と考えている。

 「滋賀をテーマにした作品は既に数作書き上げた。いつか日の目を見ることができたら」と語り、「今後もありうる未来を描き、読者をどきどきわくわくさせたい」と笑顔を見せた。(辻井花歩)

          ◇

 1971年、東京都調布市生まれ。大津市在住。中学生の頃にSF作家アイザック・アシモフのエッセーを読んで科学記者を目指し、東京大理学部地球惑星物理学科を卒業後、大手新聞社の記者となった。その後、東京大の講師や獣医師などとしても活躍した。

 滋賀県に転入後に小説を書き始め、49歳で第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビューした。

 興味の幅が広く、宝石や馬術、フィギュアスケートにも精通し、小説の執筆の傍らノンフィクションの記事を雑誌などに多数寄稿している。

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