忍びの実像 官民迫る

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忍者

 忍者――。その響きは神秘的で、洋の東西で老若男女の知的好奇心をくすぐる。2017年に甲賀市、三重県伊賀市の文化財群が日本遺産「忍びの里」に認定され、官民で調査研究が進む。本来は秘してこそのベールを払い、忍びの真の姿に迫る人々を紹介したい。(藤井浩)

「この扉の開いた古箪笥に古文書がありました」と話す渡辺さん(甲賀市で)
「この扉の開いた古箪笥に古文書がありました」と話す渡辺さん(甲賀市で)

土蔵から古文書

 主に東京での37年間の会社勤めを終え、2000年に甲賀市甲南町へ帰郷した渡辺俊経としのぶさん(82)を待っていたのは、ご先祖様の〈発掘〉だった。

 ルーツは江戸時代の「御忍おしのび役人」。430年来の屋敷で生まれ育ち、子どもの頃、祖母から「昔のように襲名したら、おまえの名は善右衛門ぜんえもんだよ」と聞かされていたが、忍者だとは思いもしなかった。

 帰郷直後、地元の甲南忍術研究会メンバーから偶然、「渡辺善右衛門を知らないか」と聞かれた。その名は、尾張徳川家に仕えていた忍びだという。「世が世なら私が善右衛門です」と答えたことをきっかけに、“ご先祖探し”が始まった。

 家系図などを調べたところ、確かに同姓同名の人物が尾張藩に勤めていた。さらに、屋敷裏の土蔵にある古箪笥だんすから、157点の古文書を発見。藩の事情のほか、忍術や居合術、火術、体術といった兵法、家系、信仰について書かれており、実在した忍者の子孫であることを示す決定的証拠になった。

身分伏せ稽古に励む

 一連の資料が示すのは、渡辺家は戦国時代末期、織田信長に仕えた渡辺久綱が天正15年(1587年)、摂津国から甲南町へ移住したのが始まり。鉄砲や火術に秀でたことから、江戸時代初めに8代目が尾張藩に採用され、藩に用ができれば、馬で名古屋城下へ向かう非常勤の忍者だった。以後約190年間、自身の曽祖父に当たる14代目まで続いた。

 表向きは鉄砲指南役として毎年、射撃訓練に立ち会い、金5両の手当を受け取っていたという。忍びの身分は藩内では伏せられたが、秘密裏に「術数を尽くし、命を捨てて御用を務め、父子兄弟・親友にも他言しない」との契約を交わした。普段は地元で農民や庄屋として暮らしながら、様々な術の稽古に励み、他の城下への潜入活動もしたようだ。

20年間の成果 一冊に

 渡辺さんは甲賀忍術研究会長を2011年まで務め、その後も郷土史を徹底的に調査。20年間の成果を今年2月、「甲賀忍者の真実 末裔まつえいが明かすその姿とは」(サンライズ出版)にまとめた。

 忍者といえば、漫画や小説などで、秘術を駆使し、戦いに明け暮れたイメージがあるが、渡辺さんは「忍術といっても突出した特殊技能ではなく、忍者も生身の普通の村人だった」とみている。「痕跡をたどるのは難しいが、どのように暮らし、技を磨いたのか、実像を伝えていきたい」と、探究心は尽きない。

       ◇

 ニュースをわかりやすく伝える「Newニュー門@滋賀」。11月は忍者をテーマに、1週間連続で掲載します。

市観光活用着々と

 甲賀市は近年、忍者の研究、PRに力を入れている。忍者の「見える化」を目指し、2015年度に歴史学者の磯田道史さんを団長に、古文書や遺物を調べる「甲賀流忍者調査団ニンジャファインダーズ」を結成。渡辺家の文書などを解読し、原文のまま活字にした翻刻本など3冊を17~19年度に刊行した。

 19年3月には「忍者を核とした観光拠点整備基本計画」を策定。甲南町で20年9月に観光情報センター「甲賀流リアル忍者館」を開館させ、今月22日からは忍者が火や自然などを利用して敵から逃れる「五遁ごとん」の術体験コーナーを始めるほか、24年にかけて、近くの古民家を忍者学校的に活用したり、土塁に囲まれた城跡を整備したりする方針だ。

 信楽町多羅尾出身の岩永裕貴市長は幼い頃から、本能寺の変(1582年)後、明智光秀に追われた徳川家康の窮地を故郷の甲賀忍者らが救ったことを古老らから繰り返し聞いて育った。

 「家康公はここを通ったとか、茶畑の後ろに隠れた、とかね。だから忍者はとても身近な存在で誇りだった。とはいえ、その実像にはまだ迫り切れておらず、渡辺家のように史料が眠っている家は多いはずだ。調査研究をもっと深めたい」

<MEMO>

 甲賀忍者 戦国時代、強大な領主がいなかった甲賀では、土豪や地侍が合議制による自治組織を形成する一方、各地の戦などに雇われ、間諜かんちょう(スパイ)やゲリラ活動に従事。優れた成果を上げ、「しのび」「甲賀衆」などと呼ばれた。都に近く、木こりや大工、山伏ら多様な職種の人が交わる地域だったことから、優れた情報収集能力や軍事・工作技術、宗教や薬などの知識を持ち、重宝されて活躍したとみられる。

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1642822 0 New門@滋賀 2020/11/21 05:00:00 2020/11/20 23:32:23 2020/11/20 23:32:23 「この扉の開いた古箪笥に古文書がありました」と話す渡辺さん(甲賀市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/11/20201120-OYTAI50021-T.jpg?type=thumbnail

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