<1>仕事×休暇=余白
完了しました
大津の魅力ワーケーションで発信
◆地域おこしグループ「シガ―シガ」
2020年11月下旬、大津市北部の琵琶湖岸。時雨がちの空を覆う雲が不意に切れ、虹が大きな弧を描いた。浜辺の椅子に腰掛け、ノートパソコンと向き合っていた人たちが手を止め、空を見上げた。「きれい……」

テレワークをしながら休暇も楽しむ「ワーケーション」。1泊2日の体験会に、京都、大阪などから編集者や大学教員、会社員らが参加した。湖岸の民宿を拠点に、昼は農業や漁の体験を挟んで仕事もこなし、夜はたき火を囲んで星空を眺めた。
企画したのは、大津市北部で暮らす男性4人でつくる地域おこしグループ「シガ―シガ」。メンバーの一人、建築家の岡山泰士さん(33)は、「新型コロナウイルスの影響が続くなか、ワーケーションを『地域の魅力を伝える新しい切り口』と位置づけた」と言う。
目の前に琵琶湖、振り返れば比良の山々。風光
岡山さんは生まれも育ちも京都市。同市と沖縄県に拠点を置く建築設計事務所の代表を務める。幼少期に泳ぎにきた琵琶湖になじみがあり、子どもを授かったのを機に17年、大津市木戸(旧志賀町)に移住した。
気に入った土地に深く関わりたい。その思いを、大津市内で美術教室などを開く芸術家市村恵介さん(41)に伝えた。そこから、市村さんが芸術指導で関わる障害者施設に勤める西翔太さん(34)、写真家山崎純敬さん(43)と知り合った。
旧志賀町エリアには有機農法で野菜を育てる農家、若手の漁師ら個性的な面々が暮らす。地域外の人と結びつけば、より豊かな町になる――。
動き始めたグループの出ばなをくじいたのがコロナだった。20年初め、感染が拡大。4月には緊急事態宣言が発令され、「ステイホーム」が求められた。
だが、4人はめげなかった。「俺たちは『ステイローカル』やな」。電車で京都から約30分と都市部に近い点を生かし、ワーケーションに焦点を絞った。
コロナ禍で「テレワーク」を採用する職場が増えた。感染リスクは減るが、岡山さんは、時間と場所を問わない働き方で効率化が進みすぎることを危惧した。「オンとオフの切り替えが難しい。パンクする人もいるんじゃないか」。時間の「余白」を作るのに、ワーケーションは最適と考えた。
草の根の動きを、自治体も支える。ある大津市職員は国の補助制度を紹介し、自ら活動に加わった。体験会には、県の幹部職員も参加。PRなどで連携していく考えだ。
「リラックスでき、仕事がはかどった」「来てよかった」。参加者の声に手応えを感じた岡山さんらは、今年以降、受け入れを本格化させる。地元の魅力を伝えるウェブメディア制作に向け、山崎さんらが移住者への取材、自然や町並みの撮影なども進める。
「シガ―シガ」には、地名以外に、ギリシャ語で「ゆっくり、ゆっくり」の意味があるという。岡山さんは言う。「山や風、水を感じて暮らす。ゆっくりした空気感を伝えていけたらいい」(矢野彰)
◇ 新型コロナウイルスの感染拡大で、社会のあり方は大きく変わった。苦境を脱するため、悩み、考え、その思いを実行に移した人たちの姿を追った。

◆メモ◆ ワーケーションはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。リゾート地などで休暇を楽しみながら働くことで、2010年代に欧米で広がったとされる。国内では19年にワーケーション自治体協議会が設立され、滋賀では県と13市町が20年11月に加盟。コロナ禍で打撃を受けた観光業界に推進の機運が高まっており、県は12月、関西、中部圏の企業などをターゲットにモデルツアーの誘致を始めた。