<上>物と言葉 生きる力に
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津波で子ども失った木工作家支援

東日本大震災の津波で3人の子を亡くした宮城県石巻市の木工作家遠藤伸一さん(52)の元に今月上旬、特注のノミ11本が届いた。贈ったのは、彦根市の復興支援団体「ユナイトトゥギャザー」。代表の夏原美智子さん(72)(彦根市)は、毎年のように石巻を訪れ、遠藤さんを10年間、支えてきた。「今年はコロナ禍で会えないので、代わりに一生使える工具を、と思った」
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夏原さんが支援を始めたのは2011年9月。震災関連のテレビ番組で、遠藤さんが小学校に寄贈される図書の本棚を作ったことを紹介していた。3人の子を失いながらも、他の子どもたちのことを思う姿を見て、「この人を支えたいと思った。父がかつて材木業を営んでおり、縁を感じた」という。
夏原さん 活動の輪広がる
阪神大震災(1995年)でも、神戸市内で炊き出しを手伝った経験があった。「自主的に集まった人が街を支えていた。一歩を踏み出すことが大切だ」。被災地には既に義援金を送っていたが、「お互いに顔が見える形で」と、インターネットで調べ、面識のない遠藤さんに電話をかけた。「今、何があると一番助かりますか」

靴や服、線香立てやお供え用の和菓子――。一緒に避難生活を送る人たちの分も含め、「生きてほしい」。その一心で、たくさんの物資を届けた。
間もなく、友人や知人が夏原さんの活動に賛同し、ユナイトトゥギャザーが発足。チャリティーコンサートの開催、復興を訴えるTシャツやハンカチ、傘などの販売などを重ねて義援金を集めた。夏原さんは彦根市内で雑貨店を経営した経験をグッズ販売に生かし、復興を願う歌も自ら作詞した。
遠藤さんも、受け皿として、12年4月、石巻市立渡波保育所で一緒に避難生活を送った人たちと「チームわたほい」を設立。自宅跡を拠点に交流イベントを開き、被災体験を伝える語り部活動も行っている。
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現地交流ができなかった昨年、夏原さんらは、被災者へのメッセージを書き込んだ手作りのボード約30枚と、「東北がんばれ」「絆」などの文字やイラストを描いた木製パネル約300枚を送った。遠藤さんは「物もありがたいが、言葉が何よりの生きる力になる」と感謝する。
衝動的に始めた個人的な支援は、多くの賛同者を得て、湖国と被災地をつなぐ太い流れとなった。
コロナ禍もあり、夏原さんらは10年を区切りに、大規模な活動を終える。「今後は、必要に応じて支援する。家族のような関係でありたい」と願う。
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遠藤さんの自宅跡には、小さな3体の地蔵がある。長女花さん(当時13歳)、長男
「もう幸せという言葉を使うことはないと思っていた。でも、夏原さんをはじめ、多くの人に支えられ、父さんは今、幸せだよ」
(松山春香)
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東日本大震災から11日で丸10年を迎える。発生直後から支援、交流を続けてきた人たちの思いを紹介する。