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1次産業
眠る資源に光
「わー、きれい!」。琵琶湖の固有種の二枚貝「イケチョウガイ」を開くと、身の中から約1・5センチの真珠が5個も出てきた。ピンクやオレンジ、銀色の輝きに女性客が歓声を上げる。
「これは指輪に最適。身も炊いたらおいしいんですよ」。2021年12月、守山市内で開かれた赤野井湾の真珠をPRするイベントで玉津小津漁協組合長の田中善秋さん(74)が胸を張った。
田中さんにとって真珠の光沢は未来への希望だ。
固有種のニゴロブナやコイをとり、郷土料理「
「漁師30人を抱える組合が持たない。何とか生き残らなければ」。危機感を募らせ、真珠の養殖に注力するようになった。
琵琶湖の真珠は最盛期の1970年代、生産量は年6000キロを超えたが、2020年は14キロに落ち込み、業界は低迷している。
組合は18年、放置状態だった養殖棚を活用し、真珠貝のオーナーを募る取り組みを始めた。買ってもらった貝に真珠の核を入れ、3年後に真珠を取り出す。試行的に進めていたが、アピールに本腰を入れ、現在は約90人の申し込みがある。
「かつて『真珠王国』を築いた宝がある。光は差している」と田中さん。眠れる資源に活路を見いだす。
加工から流通
1次産業は、コロナ禍で大きな打撃を被った。
野洲市の農業生産販売会社「アグテコ」は20年4月、フリルレタスを栽培するプラントを開設した。2・8ヘクタールと国内最大級の施設で、太陽光を取り入れ、培養液をためたプールで育てる。1日に4万株を出荷でき、投資額は17億円に上った。
出荷の8割を外食向けと想定していただけに、最高経営責任者(CEO)の宮代昌明さん(49)は「目の前が真っ暗になった」と振り返る。
全国のスーパーなどを巡り店頭陳列を直談判。メインバンクの滋賀銀行などの金融機関も販路開拓を支援した。今は納入先がコンビニのサラダの加工業者などに広がり、危機は去った。
農業者が加工、流通までを一体的に進め、付加価値を生み出す手法は「6次産業化」と呼ばれる。県も補助金を出すなど支援しており、三日月知事は「事業者の挑戦を促して競争力を高め、持続可能な1次産業を構築したい」と強調する。
未来へ
宮代さんは建築関連企業を退職し、18年にアグテコを創業した。野洲市で3代続く野菜農家、南出卓哉さん(44)の「家族経営には限界がある。企業化や大規模化を進めなければ、持続可能な農業は実現できない」という問題意識に共鳴したのがきっかけだ。
プラントでは栽培管理の75%を機械化した。従業員約100人は週休2日制で勤怠管理システムを導入。ロッカーや休憩室を完備した事務棟もつくり、働きやすさを重視する。宮代さんは「他業界では当たり前のこと。農業は、若者が就職したいと思う環境を提供してこなかった」と強調する。
南出さんの栽培のノウハウに加え、宮代さんは天候に応じた対処法などをデータ化し、技術継承の基盤作りを進める。南出さんは「農業に無縁だった宮代さんだからこそ、自分が勘でやってきたことを言語化し、若者に伝えられる」と言う。
創業メンバーが退いても、次世代が技術や販路を継ぎ、企業として発展を続ける。「農業に変革を起こす」。2人は声を合わせた。
(藤井浩、井戸田崇志)
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新型コロナウイルスの感染拡大で、当たり前だと思っていた日常が揺らいだ。社会経済活動は大きな打撃を受けたが、回復を図るなかで見えてきた湖国の強みや潜在力もある。コロナ禍をくぐり抜けた先にあるものとは。
<6次産業化> 農林漁業者が生産から加工、販売流通までを一体的に手がける試み。「6次」は、1次産業(農林漁業)、2次産業(加工業)、3次産業(販売流通業)の1~3を掛け合わせた数字の6にちなむ。1次産業が潤うようにすることで後継者不足などの課題を解消し、食料自給率を高める狙いがあり、政府も推進している。