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「第6波に入ったという認識で体制を取っている」
昨年12月24日の県の新型コロナウイルス対策本部員会議。オンライン出席した草津保健所の荒木勇雄所長の発言で、三日月知事ら県幹部が一堂に会した会場に緊張が走った。出席者の脳裏をよぎったのは医療崩壊に直面した第5波の惨状だ。
重症者を受け入れる市立大津市民病院(大津市)では、1人退院するとすぐまた1人が入院する厳しい病床運営を迫られた。北脇城理事長(66)は「満床続きだったが病院が一丸となって乗り越えた。風評被害による経営面の打撃も大きかった」と振り返る。
県内の病床使用率は昨年8月25日に92・9%に達し、同月下旬に1日の感染者数(235人)と自宅療養を含む全療養者数(2667人)が過去最多に。療養者のうち入院できた人の割合を示す入院率も一時、11%まで下がった。同27日には緊急事態宣言が発令された。
■病床増に注力
医療
厚生労働省の調査では2019年時点の県内の病院数は57で、人口10万人あたりの病院数は47都道府県で下から2番目だった。県南部で人口が増加傾向にある一方で、医療提供体制の整備は追いついていない。そこに起きたパンデミック。コロナ患者の受け入れは25病院にとどまっている。
第6波に備え、県は「オール滋賀」で臨む体制作りに注力する。さらなる病床の積み増しを要請し、確保病床数は441床と昨年8月末(380床)から16%拡充した。最大で483床まで増やせるという。
医療崩壊を防ぐには、早期治療で重症化させない取り組みも欠かせない。
役目の一端を担うのが民間の淡海医療センター(草津市)だ。昨年11月、県内の病床が逼迫した時に運用する臨時医療施設「安心ケアステーション」をセンター内に開設。入院調整に時間がかかる重症化リスクのある患者をいったん受け入れ、必要な治療を早めに施す。
無症状者らを受け入れる宿泊療養施設(677室)では消毒作業を効率化し、稼働率を第5波の最大59%から74%まで引き上げる。
県健康医療福祉部の角野文彦理事(66)は、「民間病院や事業者が協力してくれ、非常に心強い」と感謝する。
■湖北が下支え
地域の充実した「医療力」が垣間見えたケースもある。
湖北地域は確保病床数が74床で県内の2次医療圏で3番目に多い。長浜赤十字病院が重症、長浜市立長浜病院が中等症に対応し、同市立湖北病院は軽症と中等症を診る。第5波では、長浜赤十字と長浜病院は県南部の患者を多く受け入れ、湖北病院には湖東地域の患者や外国人が入院した。
湖北は元々、急病人の診療と搬送を地域内で受けて治療する急性期完結率が89%と県内7医療圏で最も高い。湖北病院の納谷佳男院長(56)は「湖北の緊密な協力体制がコロナ治療で生き、県全体の医療を支えられた」と強調する。
コロナ後に求められるのは、平時の対応がきめ細かで、パンデミックのような非常時にも強い医療提供体制だ。「医療人材の育成と医療従事者が持続的に働ける環境作りに取り組む」。三日月知事は力を込める。
(井戸田崇志、松久高広、辻井花歩)