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ワーケーション


コロナ禍の収束が見通せない中、新しい働き方が県内でも広がり始めている。旅行気分で休暇(バケーション)を楽しみつつ、仕事(ワーク)する「ワーケーション」だ。
■白砂青松の仕事場
「経営者は時代に敏感に対応することが必要。ここなら大自然の中でリフレッシュでき、仕事への意欲を高められる」
そう胸を張るのは、高島市・近江白浜の旅館「白浜荘」社長の前川為夫さん(67)。白砂青松が広がる琵琶湖畔で1963年に創業した。体育館やテニスコートを備え、主に学生の合宿や企業の研修を受け入れてきたが、コロナ禍で利用客が半減。新たな一手に乗り出したのがワーケーション――2020年に利用客らを対象にしたアンケートで実施希望が「89%」にも上った環境整備だった。
複合機やプロジェクターなどの設備を充実させ、約20人が宿泊できる大学の元研修施設を購入・改修して企業やグループに1棟貸しできるようにした。
試験的なモニター宿泊では8割以上がワーケーション体験に満足し、「気分転換でき、仕事がはかどる」などと好評だったという。
今年1月からは東京五輪で注目されたボルダリングを楽しめるよう、体育館で工事を進めている。前川さんは「仕事も生活もともに充実を図るワーケーションは浸透するはず」と期待を示す。
■稼働率7割
主に団体相手に需要を取り入れようとする前川さんに対し、大津市・おごと温泉のホテル「びわこ緑水亭」社長の金子憲之さん(46)は個人客にターゲットを絞る。
21年2月に「滋賀で最高のワーケーションを」のキャッチフレーズで新プランを売り出した。作業スペースにパソコンとプリンターを常備し、湖を望む屋外テラスでも仕事ができる。稼働率は約7割と順調だ。
「京阪神の個人事業主や企業の役員に多く利用されています」と話す金子さんだが、課題も指摘した。
「勤務日なのか休日なのか。会社の情報を外に持ち出して仕事できるのか。行政や企業がどこまで労務管理などの制度を整えるのかまだわからない。冷静に推移を見極めたい」
■目の前に波
定年を1年後に控え、大津市の琵琶湖畔に「自分が働きたい理想の場」を作り上げたのは、仲隆介・京都工芸繊維大教授(64)(建築計画)だ。
民宿の協力を得て建物の一室を改装し、21年6月から、6人程度が集って自由に仕事できる環境に整えた。予約制で誰でも使える。仲教授自身、ここで設計などの仕事をこなし、思考が滞ると趣味のサーフィンへ。約30メートルも歩けば波に乗れる。
「生きる場プロジェクト」と名付けたこの活動の狙いを仲教授はこう説明する。
「経済大国だった日本はいつしか低迷した。オフィスという『箱』を整えるやり方だけではもう駄目。自然の中だと脳もリラックスし、様々な人間と交流することで新鮮な発想もわく。このプロジェクトは『従来の働き方にとらわれたくない』という個人と『成果を出し続けたい』という企業の思いを同時に解決するための実験です」
取り組みを知った九州の人からは「生き生きと過ごせる場をこちらでも作りたい」との問い合わせが入っているという。
働き方や生き方が大きく変わりつつある時代の転換期。湖国発の実験の行方に注目が集まる。(渡辺征庸)