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滋賀大とウクライナの学生
滋賀大とウクライナの大学生が、平和を考える絵本をウクライナ語に翻訳した。「戦争で傷ついた子どもたちのために」と一語一語、最適な表現を検討。オンラインで交流を重ねる中で、日本の学生たちには「軍事侵攻は人ごとではない」との意識も芽生えたという。ユーチューブで配信する朗読動画で、彼らは語りかける。「ヤク ビグリャダイェ ムル(へいわってどんなこと)?」――。(松久高広)
最適表現 ズームで意見交換


絵本「へいわって どんなこと?」(童心社、B5変型判36ページ)は、様々な国の子どもたちを優しいタッチで描き、「せんそうをしない」「ともだちになれる」などのメッセージを織り込んでいる。翻訳には、滋賀大生6人と、ウクライナ東部のドニプロ国立大で日本語を学ぶ学生3人が挑戦した。
経済学部3年の森本夏帆さん(20)はアンナ・プチェロボドバさんと同じグループで作業。メールやウェブ会議システム「Zoom」を通して、日本語で活発に意見を交換した。
「わるいことをしたときはあやまる」の一文は、アンナさんの「『わるい』を直訳すると犯罪のような意味になる」との指摘を受けて「まちがえたときは」と表現。「いえやまちをはかいしない」は、子どもが破壊主体になり得ない状況を踏まえ「はかいされない」と翻訳した。森本さんは「両語のニュアンスの違いや、読者が子どもであることを意識した」と振り返る。
4月に活動を始め、約1か月かけて動画の完成にこぎつけた。
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プロジェクトの中心となった近兼敏・滋賀大客員教授は「ウクライナの学生とふれ合うことは、翻訳作業にとどまらず、日本の学生にとって貴重な経験になると考えていた」と明かす。
実際、両国の学生たちは様々な話に花を咲かせ、仲を深めていった。アンナさんは絵を描くのが趣味で、オンライン授業のことを「おやつを食べながら受けられるから太っちゃう」と話した。戦禍にいる彼女も、自分たちと同じように学生生活を楽しむ普通の若者――。森本さんは、そう感じたという。
だからこそ「ドイツ語のテストが警報で中止になった」「友達が(戦線を後方支援する)ボランティア活動で授業に来ない」という現実を聞かされたときは心に迫るものがあった。「友人の言葉を通して『同年代の若者が生活をめちゃくちゃにされているんだ』と強く意識させられた」と語る。
プロジェクト終了後、アンナさんから「一緒に翻訳をした時間は、とても楽しかった。言いたいことを伝えられた」というメールが届いた。森本さんは「<遠い世界で起きている怖い話>で終わらせてはいけない。自分たちにもできることがあると、多くの人に知ってほしい」と話した。
6月末まで配信
動画の配信は6月末まで。滋賀大産学公連携推進機構のホームページからも見ることができる。