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医療提供体制 医師確保の道険しく
「医師の招請合戦で勝ち抜くには投資をしなければならない」「経営を強化しないと生き残れない」
6月上旬にオンラインで初会合を開いた県立病院の経営形態のあり方検討専門部会で、委員の伊関友伸・城西大教授は激しい口調で正木隆義・県病院事業庁長に迫った。伊関氏は全国の公的病院が「(大学の)医局からどれだけ医師の派遣を受けられるか、競争のまっただ中にある」と指摘。県に対し、戦いに臨む覚悟を問いただした格好だ。



部会は総合病院(守山市)、小児保健医療センター(同)、精神医療センター(草津市)の県立3病院について経営の将来展望を議論するため、設立された。
総合病院と小児保健医療センターは2025年、統合を予定する。3病院は現在、県の直営だが、経営の独立性や人員配置といった運用の弾力性が高まるとされる地方独立行政法人への移行の可能性などを探る。
■経営基盤強化
県立病院が経営の見直しの議論を迫られた背景に、医師の働き方改革がある。
公的病院には大学病院が医師を派遣するケースが多く、県内では京都大、京都府立医科大、滋賀医科大が主な派遣元だ。かつて勤務医は長時間労働が常態化していたが、24年には医療法に基づく勤務時間の上限規制が完全実施される。そのため、大学病院に医師を留め置き、派遣先から医師を引き揚げる動きが加速している。
派遣先の選定でも、医師の希望が重視されるようになっている。「診療・検査設備が充実し、医師数が多く、過度な負担が生じない病院が好まれる」。県内の病院関係者は語る。
小児保健医療、精神医療両センターは、患者の需要は高いが、診療報酬が低い医療行為が多いことなどから収益を上げにくく、不採算部門を抱える。過去に発行した病院事業債の償還も必要で、県の病院事業は22~25年度、資本的収支が20億円以上のマイナスが続く見通しだ。
医療提供体制を維持するには、不採算部門を採算部門が補完し、設備投資の原資を確保できる経営基盤の確立が急務となっている。
■病院再編
病院経営を巡る環境が変化し、再編も迫られている。
厚生労働省は20年1月、県の申請に基づき、湖北医療圏(長浜、米原両市)を再編の重点支援区域に指定した。4病院(市立長浜、長浜市立湖北、長浜赤十字、セフィロト)が対象で、病床のスリム化を行えば財政支援を受けられる。
湖北医療圏は人口が減少する一方、490床を超える大規模病院が二つある。関係者によると、大学病院側は「各病院に医師を派遣する余裕はなく、病院を統合しなければ、湖北への派遣を続けられない」と再編を強く求めているという。
しかし、コロナ禍の影響で再編に向けた湖北医療圏の調整会議は20年3月の開催を最後に中断している。
病院の設置主体が異なるため、調整の難航も予想される。長浜市の浅見宣義市長は今年5月、県に調整会議の再開を要請。早期に協議に入りたい考えだ。
■幹部と現場対立
病院の運営形態を変えたとしても、経営改善につながるとは限らない。
大津市民病院は17年度、市の直営から地方独立行政法人に移行した。医師1人あたりの診療収入は同規模の公立病院の平均を下回る。コロナ関連の補助金を除くと実質赤字のままで、17年度以降、市は年6億~57億円の運営費負担金を支出した。
経営の独自性を高めるはずが、結局、市が赤字を
「経営にたけた人材を事務職に迎え、診療科の壁を越えて協力する文化を醸成する必要がある」。4月に就任した日野明彦院長は、風土改革にも尽力する。
医療従事者が働きやすい環境づくりが、県民に提供される医療の充実につながる。好循環をどう創り出すかが問われる。(井戸田崇志、西堂路綾子、林華代)